『永遠のソール・ライター』を観た(2020/01/24)
光と霧と雑踏と、思惑ありげな都会の風景。
ソール・ライターのモノクロ写真を初めて見た時の印象。
ただただ色が色として純粋に美しい。日常で見過ごされてしまうけれど見過ごしてはならない日常の美しさを切り取っている。
ソール・ライターのカラー写真を初めて見た時の印象。
現在、Bunkamuraザ・ミュージアムで開催中の『永遠のソール・ライター』では、モノクロ写真、カラー写真、絵画作品等が200点以上展示されている。
ソール・ライターは、1950年代からニューヨークの有名ファッション誌で写真家として活躍し、1980年代には商業写真の世界から退く。そして2006年にドイツのシュタイデル社から写真集『Early Color』を刊行したことがきっかけでアート作品として脚光を浴び始め、亡くなった現在、残された写真の発掘作業により新作が“発表”されるという、ある意味、現在進行形の新進気鋭の写真家だ。
ある時は人間離れした角度から撮影し、またある時は盗撮のように人の力の抜けた瞬間の表情をひっそりと撮影している。
鏡やガラス越しに撮影し、人が乱反射して風景と融合したような写真も多く、とても幻想的だ。
そしてカラー写真においてひときわ異彩を放っているのは色彩感覚。都会の足跡残る雪道と真っ赤な傘や、暗いバスの車内らしきところで撮影された外から入り込む赤い光と寒さと湿度を感じさせる濃紺。どれも美しい。
日常で何気なく訪れる場面ではあるけれど、切り取ったその風景にはほんの少しの不安感と、どこへ向かっているんだろうと想像してしまうワクワク感が混在している。
ソール・ライターの写真作品には、事実は小説よりも奇なり。という言葉が似あっている気がする。
ネットでよく見かける有名な作品は、他人の息遣いは良く聞こえてきそうではあるけれどどこか疎外感を感じる冷たさもあり、達観したような生き方をしているようにも感じられ、あまり人間には興味がないのだろうか。と思ってしまっていたけれど、親友でもある最愛の妹や長年連れ添った恋人の写真では、妹には妹への慈しみの気持ち、恋人には恋人へ注いでいる情熱、写真を撮ることでそれぞれに違った愛の形を示しているようでとても人間味を感じ、違った美しさがあった。
雨や雪の寒い日にもう一度訪れ、渋谷の雑踏と路地裏を撮影して帰りたくなってしまう展覧会だった。
会場:Bunkamuraザ・ミュージアム
期間:2020/1/9〜3/8
料金:1500円