Jリーグ 観戦記|オレンジの光沢|2021年J1第21節 清水 vs 大分
灰色の雲と雨粒。清水駅からシャトルバスに乗り込み、僕は初めて日本平へと向かう。有度山の山頂を目指す時間は期待の時間だ。それは傾斜の高まりとともに、より濃密なものへと昇華していく。
霧雨はスタジアムの周りに靄を作り出す。靄に包まれたアイスタ。その幻想的な雰囲気はフィクショナルな世界の中でそびえ立つ鉄の要塞を想起させた。無機質な鉄の表皮の上にオレンジが個性という名の色を染める。キックオフまでの時間を使い、全身でスタジアムが発する息遣いを感じたかった。
堅固な台地。生い茂る葉々はこの場所が山であることを再認識させてくれる。鉄の外壁を見上げた。階段を上り、場内へと足を踏み入れる。いくつかの通路を通り、緑色の芝生が視界に飛び込む。雨に濡れ、表面には艶が浮かぶ。手を伸ばせば、そこに漂う気配に触れることができる。上空から降り注ぐ雨がその気配を可視化する。そんな気がした。
光沢を帯びたオレンジ。前日に見たアルビレックスの色とも違う、黄味の強いオレンジ。それは生き生きとしていた。酸味のような刺激も味わった。眼に残像が残った。その色で埋め尽くされたスタンドを見て、ただ美しいと思った。
ブラジルの香りが場内を流れる。今までに耳にしたものと比べ、アイスタに轟く太鼓の音はリズミカルであり、軽妙な印象を受ける。清水のサポーターたちが集う西サイドスタンドの中央にはコルコバードの丘に立つキリスト像のフラッグが掲げられていた。清水が展開するサッカーは過去も現在もブラジル色が強いかと問われれば、そのような印象は薄い。しかし、ブラジリアンタウンが存在し、サッカー王国でもあるこの地のアイデンティティーが投影された九十分を僕は体感した。そして、旅の目的でもある、日常から離れたことも実感した。
濁流のような右サイド。清水の片山と鈴木唯が縦横無尽に動き回る。そこに加勢するサイドバックの原。カルリーニョス・ジュニオの小刻みなドリブル。チアゴ・サンタナを狙った縦パス。ボールを回して大分陣内へと徐々に入りつつ、濁流を目指した左からのロングボールが幾度も放たれ、雨粒が風を受けて舞っていることをそのたびに意識した。
大分は中盤の下田がボールの起点となってチームを動かしていく。両腕を力強く振りながら駆ける様子が眼につく。それは彼が目立っているようにも、プレーにおいて他の選手たちと若干の温度差があるようにも見えた。長沢へのロングボールも時に織り交ぜながら、ボールはハーフウェーラインまで到達する。しかし、その後はオレンジの壁が進路を塞ぐ場面が散見された。
コーナーキックから転々としたボールを押し込んだ原。彼のオーバーラップはオレンジの軌跡をピッチに残す。ディサロ燦シルヴァーノのヘディングを導いた、終了直前の疾走。前方に広がる空白地帯に僕の指を向かわせるほど、その走りは最後まで伸びやかなままだった。
清水 1-0 大分