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旅|餃子と栃木SC
横浜駅の構内を風のように抜ける。ホームに停車した東海道本線に僕は駆け込んだ。戸棚の上にうっすらと溜まった埃のような疲労。それを一掃したかった。視界に映る景色を変え、体内に新鮮な風を吹き込みたかった。宇都宮が僕を呼んでいた。
その地で過ごした二十時間。僕の身体は多様な餃子といくばくかのビールで満たされた。人が個性を持つように、口にしたすべての餃子はそこにしかない味を秘めていた。香ばしく焼き上がった皮。マヨネーズと一味唐辛子による、味覚と視覚のコントラスト。翡翠色をした水餃子。肉と野菜の協奏。生姜が舌に爽やかな刺激をもたらす。写真を撮るようにして、僕は餃子の記憶を脳裏に焼きつけていった。
灰色の雲が空を包む。その下で過ぎていった、名もなき裏道。雑然としたアーケード街。「ファミリーマート」に入り、電子音が鳴る。異国にいるわけではない。しかし、僕は馴染みのない土地にいる。機械によって紡がれたその音は、日常と現在をつなぐ。
大地に潤いを与えるかのように、雨が上空から降り注いだ。気配に角のようなものがあるとすれば、街宣車から流れる『君が代』はその突端に磨きをかける。そんな鈍色の世界に栃木SCは彩りをもたらした。選手たちがまとった蛍光イエローの衣。それは内陸の土地に似つかわしくない、青々としたトラックによく映えた。上空を舞うボールを見上げる。視線を上げるたびに、いつもとは異なる空がそこにある。僕はこの空を求めて、旅を続ける。
昨日と同じように、熱海へと向かう東海道線に飛び乗った。所定の位置へと戻すように、荷物、身体、そして、心を席に落ち着けた。左に広がる窓外を眺める。流れゆく車窓。それは、どこにでも、どこまででも僕を連れていってくれそうな気がする。都心へと近づく列車。次第に色が増えていく。そして、色の数は人の数と同意だと思った。