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Jリーグ 観戦記|美しき献身|2020年J1第23節 横浜FC vs FC東京

 透明な光に照らされた視界。そこに黄色が差す。雨が過ぎ、空は鈍色から淡色へとフィルターを変えた。三ツ沢へと向かう新横浜通り。ザ・ストロークスが奏でる音色が耳から背中へと流れ、勾配を上る僕を背後から押す。

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 八月以来の三ツ沢。検温と手の消毒を済ませ、階段を駆ける。緑色のカーペット。青の濃淡が世界を分ける。音量を上げるように、人の気配やざわめきが空気に漂う。生きたサッカーが手の届く場所にある幸せを全身で消化した。

 背後から号令が飛ぶ。FC東京が仕掛けるプレスの原則を探った。相手の「背中」が焦点となる。横浜FCがディフェンスラインでボールを回す。下がった重心。第一段階。ディエゴ・オリヴェイラ、田川、永井が連動しながら相手を隅へと追いやる。

 苦し紛れのバックパス。第二段階。完全に背中を見せた状態はFC東京が誇る攻撃陣の加速を意味し、相手から自由を、ボールから相手の意志を奪い去る。地引き網のような陣形を作り、ボールを我がものとする。

 サイドへとボールを移し、それが合図となって攻撃陣が裏の空白へと侵入していく。背走の守備。第三段階。攻守における一連の流れ。仮に空白が存在せずとも、FC東京には相手を引きつけ、隙間を作り、ボールを運び、攻撃を完結できるディエゴ・オリヴェイラがいる。簡潔なる合理性。

 合理的サッカーの白波が水色に押し寄せる。ファウルの波飛沫が上がる。高波を越えた先にある間隙。身も心もFC東京に削がれ続けた。しかし、横浜FCはその場所を目指し続ける。

 確固たる方程式のようなものは見出せなかった。しかし、全員が刻々と変わる責務に邁進した。「集中力」と言ってしまえば、それまでだ。遠くに山脈のような橙色をした陽光が広がる。光のシャワーが降り注ぐ。熱を宿した横浜FCの選手たちが呼応する。偶然かもしれない。しかし、僕はそう感じた。

 機を失った間合い。クロスバーの上を通過するヘディング。難関を経た先に広がるゴールという芳しい風景。そこに辿り着こうともがく一挙手一投足に僕は感情を移入した。ホームのゴール裏に座っていたからだろうか。しかし、それだけが理由ではない気がする。

 生じた空白には瀬沼がいた。銀色の空をボールが舞い上がる。FC東京の渡辺が割って入るも、瀬沼が押し寄せてボールを奪い取る。草野の足元へと転がるボール。反転。地を流れるボールはゴールネットを揺する。覆る明暗。飛び交う歓声と怒号。

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 横たわる力の差を埋めた献身と意志の持続。集合体としての交響。異なる視点は存在するだろう。存在し得たゴールもあったかもしれない。しかし、緑色の戦場で戦う水色の選手たちはその色にも負けない、美しき勝利を飾った。

横浜FC 1-0 FC東京

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