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Jリーグ 観戦記|雨の先に|2021年J1第19節 川崎F vs 福岡

 空から降り注ぐ水滴は昨年の夏を想起させる。雨に濡れ、艶が浮き出る等々力。雨粒は光を受けてカーテンのような紋様を夜空に作り出す。

 多摩川クラシコ後の一戦。勝手な印象だ。しかし、一拍の呼吸を置くような、どこか弛緩した雰囲気をこの一戦から感じ取る。トラックの上で炭酸のように弾ける雨。その冷たさは、その思いを加速させた。

 風が頬に触れ、雨粒が身体の表面を濡らす。それは試合と僕の意識との間にいくばくかのフィルターを作り出す。川崎は福岡を追い詰め、遠野のゴールによって先制する。しかし、選手たちが繰り出す一歩や一蹴り、間合いは雨で遮断されたかのように、いつもは続いていくものが続いていかない。流れてはいるが、微かなよどみのようなものをそこに感じてしまう。それを象徴するかのように、エミル・サロモンソンのフリーキックが川崎のネットに突き刺さる。

 ファンマ・デルガドを狙ったロングボール。福岡はミニマリズムを体現するかのような攻撃を展開した。その迷いなき戦略に、川崎の勢いが幾分か削がれたような印象を受ける。

 雨によって濡れた芝生。落雷。延びたハーフタイム。プレーへの集中を妨げる要素がいくつもあった。しかし、そこから浮かび上がるものもある。「距離が得点を生む」、僕はそう思った。福岡の攻撃にさらされながらも、タッチライン際に配された選手たちはそこに構える。そして、長谷川や山根は羽を広げた鳥のように、ボールが展開されれば攻撃へと転じた。距離は飛躍する滑走路であり、それは攻撃にも自由を与える。福岡を突き放す二つのゴールに、そんな思いが込み上げる。

 そして、田中碧には常人が見えないものが見えている。眼がボールを追う。その視線は自分自身が予想する経路へと流れる。しかし、田中はボールを異なる位置へと供給する。相手のゴールキックは僕の脳内ではクリアへと変換される。しかし、田中はつなぐ。寸分の狂いなく、味方の足元へ。「安易ではない」とも言える。その縦パス、身体の向きは相手と観客の想像を超えていく。

 断片的な記憶の中で、攻撃の残像が色濃く残る。しかし、同等かそれ以上に福岡を射るような守備が軌跡を残す。相手が攻撃に転じても、周囲の選手たちが素早く網を張ってボールを奪う。レアンドロ・ダミアンの守備は圧巻だ。それは強く、鋭い、巨大な波を彷彿とさせる。

 寒く、冷たい夜だった。細かい水滴を全身につけ、それを振り払う。意識は分散してしまった。しかし、本の中で語られる鮮烈な言葉のように、そんな中でも残るプレーと光景がある。

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川崎F 3-1 福岡

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