Jリーグ 観戦記|鳥栖への賞賛とその意味|2021年J1第8節 川崎F vs 鳥栖
多摩川にかかる夕日。等々力陸上競技場の前に盛られた丘。その上で鳴らされるトランペット。その音色は春の訪れを感じさせる。
雲のない、淡き青。それは平和で幸福に満ちた等々力の気配を包装紙のように上空から包んでくれる。青から黒への変異。空にもフロンターレの色を見つけた。
左右のウィングに配された小林と長谷川。チームの軸は変えず、新たに起用された選手たちはチームに刺激を加える。川崎の選手層は厚い。しかし、その厚さは臨機応変の狙いや先を見据えた戦略によって、勝利に還元されているように感じる。
この試合で鳥栖は敗れた。しかし、展開されたサッカーがこの日の記憶の大半を占める。朴一圭を起点としたビルドアップ。左右に開く田代とエドゥアルド。中盤から下りる島川。鳥栖は慌てない。
選手たちは水が流れるように、川崎の間隙を埋めていく。その動きは相手を引き寄せ、遠くにスペースを作り出す。そこへと走り出す酒井。蹴り込まれるロングボール。川崎を圧倒しているわけではない。しかし、鳥栖のサッカーは川崎の理想を打ち砕く。
緊密な中盤。スペースへと侵入する運動量。高度な規律がそこにある。川崎はディフェンスラインでパスを左右に振る。しかし、素早いスライドで中盤に穴を開けない。
前半の終盤に繰り出された、長谷川と山根の裏への飛び出し。それは後半の攻略に向けた、ヒントのように感じられた。その流れを汲む、レアンドロ・ダミアンへのロングボールと決定機を阻止した田代の退場。舌鼓を打っていた高度な攻守の応酬。レッドカードはその終わりを意味する。残念でならない。
しかし、川崎の特徴が存分に表現された試合ではないが、その事実が川崎の強さをより強調させる。鳥栖は川崎の色をピッチへと投影させなかった。しかし、勝利を手にすることはできなかった。田代の退場も偶発的ではなく、川崎の手により、そこまでに至る布石や流れは紡がれていた。鳥栖を賞賛したくなることに、川崎の強さを感じる。
すべての試合がそうであるように、それぞれには独自の物語がある。しかし、この日の等々力から長編小説を読んでいるかのような色濃い深みを感じてやまない。
川崎F 1-0 鳥栖
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