此紀の『私に影響を与えた医者マンガ』
どうも、呼吸器外科の……いえ、まあ、いいわね。
好きな医者マンガ(医療マンガではない)を紹介していきましょう。
『ブラック・ジャック』手塚治虫
ハイみんな知ってる。みんなが名作だと知ってる。
でも、若者が意外と読んでないのよ。
「言うて古いやつだろ」と思ってる? 読むとかなりびっくらこくと思うわよ。
このくらい有名だと、かえって食指が動かないのかもしれないけど、とにかく読んでみてほしいわ。イメージとは違った、意外な発見があると思う。
たとえば、ブラックジャックという男には「傲慢/露悪的」のイメージが強いと思うけど、読んでみると「あれ? 意外にそうでもない?」と思うんじゃないかしら。
確かに彼は、卓越した技術や見識を持っている。そのことを自覚し、誇りに思ってもいる。
だけど彼は「自分以外の医師」にも敬意を払っているのよ。
世界トップクラスの外科医の手術を「見られるんですか!? ぜひ見たい!」と興奮しながら見に行く一面もある。
「自分なんかのところに来ないで、きちんとした病院に行きなさいよ」と患者を諭す場面も多い。ちゃんと他の医者が治してくれるぞと。
ブラックジャックは「医療に関わる人間」を信用している。
実際、この作品に「悪の医者」は出てこない。利益主義の医者なんかはいるけれど(というかそれはブラックジャックなのでは?)彼らも別に悪というわけではない。
医者、医療、「患者を救いたいという気持ち」。それらへの敬意が強く流れる、ピカレスクにしては清らかな印象の作品なのよ。
ブラックジャック本人も、イメージほど孤高のダークヒーローっぽい人間ではない。けっこう広く人間関係を築いていて、先輩後輩的なしがらみを持っている。
↑ナイス感想。あとでおっぱい揉ませてあげるわ。
『JIN-仁-』村上もとか
これは『ブラックジャック』よりも現代人が読んだ作品かもしれないわね。
「タイムスリップして未来技術で無双もの」ではある。が、無双ぶりが群を抜いている。
「平成の医者だから」でなせることの範囲を超えているのよ。超人すぎる。江戸時代にタイムスリップして、青カビからペニシリンを作れる医者は、南方仁ただひとりよ。
でもものすごく面白い。南方は無双医師でありながら、江戸時代の人たちや、自分よりはるか知識や技術で劣る医師らにも、きちんと敬意を払う(ブラックジャックと同じ♡)。
また「南方仁」という個人としても、江戸の人々と関係を築こうという意志がある。ここまでぜんぜん現代に戻りたいと思っていないタイムスリップものは珍しいのでは?
それと、南方は聖人タイプの主人公なんだけど、「中立的な聖人」なのよね。弱きを助けるが、強きをくじくことはしない。
歌舞伎役者と花魁の件に顕著。
「ある花魁が、役者に弄ばれて子を孕み、廓に堕胎させられて病の床についた。その治療費を……その役者に請求しに行こうじゃねえか!」と周りは意気込む。え~っ。
その中で、南方は「しかし理屈で考えると、客である人に責任があるのかと……」ときわめてまっとうに(控えめに)難色を示す。
なんやかや説得され、「わかりました。誠心誠意話してみましょう!」と覚悟を決め、役者のもとへと向かう南方。
そして本当に誠心誠意頭を下げる。「客と遊女の間柄……孕んだ子もあなたの子かどうか解らないのは充分承知の上ですが(中略)あなたしか費用のご相談をできる人がいないのです。お願いします! お貸し付けください!」
役者はやや意地悪な様子で「確かにわたしは金持ちだけど、この金は自分の肉、自分の命さ! 一両たりとも渡しゃあしねえよ!」と、わざわざ小判の上にどっかり座る。
「南方さん、おまえさまがどうしてもあの花魁を助けたいと願うなら、綺麗ごとを言ってないで あんたも身を切る覚悟で金を工面してみなさいよ」
あの野郎めっ、と怒る取り巻きの中で、南方は「いや……あの方の言い分ももっともな気がします」。
さすがの中年社会人。分別があるわ。(ちなみに場面が現代日本であったとしても、役者と南方が正しく、裁判を起こしても勝ち目はないはず。客は「既定のサービスを正規の料金で利用しただけ」なのよ)
……なお、この回は終わり方もよい。うふふ。
『Dr.キリコ~白い死神~』sanorin / 藤澤勇希/手塚治虫
ブラックジャックのスピンオフ作品の中で、これだけはおすすめ。あら、「だけ」って言っちゃった。ごめんあそばせ。
いえ……私が読んでいないものもあると思うけど……(あと原作厨だからアニメ版とかにもちょっと不満があったりするわ)。
とにかくこの『白い死神』はよかった。
私は実のところ、ブラック・ジャックよりもキリコを推しているのよ。キリコの「けして殺し屋ではない」「助けられる患者のことは助けたい」という側面がきっちり描かれていて、うれしかった。
『聖域-サンクチュアリ-』庄司陽子
これは「医療もの」や「医師もの」とはまた違う気がするけど、医者が主人公で、面白い作品だからエントリー。
とてもシビアな作品だわ。
善意で開幕する疑似親子ものと見せておいて、甘ったるさが生まれる余裕もなく、凍りつく……。
理性的で善意的な義父と、理性的で独善的な息子が衝突する。
息子は主張する。「善意というのは大事なものだけど、『善意によって正しさが浸食され、人が傷つけられる』のは、理不尽なことでは?」
ここは、息子に理があると感じる読者も多いでしょう。しかし善人である父は、苛烈な息子をいさめる。息子はそのことにもどかしさを覚え、そして葛藤する。
「お父さんがきらいなんじゃないんだよ その反対だ」
わかるわ。とても。
2話の終わりで、完璧に見えた義父の本音も現れる。それが息子にも伝わり……薄氷が割れる。
この義父と息子は、どちらも理知的なのに、まったく噛み合わない。それは倫理観が異なるから。
義父が悪いわけではない。けれど、ここでなんとか噛み合わせなかったことが、その後の未来を決定づけてしまう……。
5巻完結だし、電子書籍サイトなんかで1巻が無料になってることもある作品だから、機会があればぜひ読んでほしいわ。
『聖域』、知らなかったので読んでみました。
おー、これは面白い。いい意味で昼ドラっぽさがありますね。
この義父を責める者はひとでなしですが、「義父が逃げなければ、踏みとどまったかも知れない」とは思ってしまいますね……。
ただ、義父は『閉ざした者』ではなく、『もともと閉ざされていた彼を、一瞬でも開いた者』という解釈もできるのではないでしょうか。
彼はいっときでも、善良さにあこがれた。
挫折しましたが……。
ここから『聖域』の軽いネタバレに入ります
あれは息子の吐露であり相談であり、カミングアウトだったので、そこで見捨てられたら、まあグレますよねえ。あれはなんというか、仕方ない。どちらの目線においても。
空を飛べと言われても飛べないし、異性を愛そうと思っても愛せないし(カミングアウトという言葉が現代ではこの意で使われることにかけており、異性愛が正しいと思っているわけではありません)、善良になろうと思ってもなれないものでしょう。人間に羽根は生えない。人食い鬼だって人を食うのはやめられない。
奥村はそれっ気があるのかとも思いましたが、同性間のDVっぽくもありますね。ドメスティックじゃないから、DVとは言わないのかな。
ストックホルム症候群や、そうでなくとも、理解はできる流れです。あれだけ怖い目に遭わされたら、いっそ媚びて寵愛を得たい。そうしているうちに親愛や友情を感じることもあるでしょう。……奥村のほうだけが、です。
しかし奥村は聡子に対して、岩城の血を感じていますね。レストランのシーンの『やっぱりね』で、明確に示されています。
やはり奥村の聡子への執着は、岩城の妹だから、というのもあったんでしょうね。
逃げた義父と対比としての、逃げない聡子なのかもしれません。
↑考察が濃ゆいわね。
まだ紹介したい作品はあるけど、長くなるからいったんこれで。
またね。
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