田代山湿原ができたワケpart2:福島県南西部【地元再発見の小旅行vol.4】
part1では田代山湿原を構成する地質が「溶結凝灰岩」だったと言うところまで突き止めました。
では早速、続きです!
溶結凝灰岩ってなに?
溶結凝灰岩(ようけつぎょうかいがん)とは、火山から噴火した火山灰や軽石などが地面にたまった時に、まだ高温の状態のため、たまってから全体が一度溶けて、その後冷えて固まってできた岩石です。
そのため普通の凝灰岩よりもカチカチに硬くなります。
その時に軽石などが潰れて細長く扁平なカタチになるんです。
下の画像の右側面の赤矢印に挟まれた範囲に細長く潰れた黒っぽいのが見えますよね。
これが溶結凝灰岩の見た目の特徴です。それが目立たない場合、間違えやすいんです。
溶結凝灰岩の一例 出典:地質標本館
イメージしてみて下さい。
バラバラに砕いた飴をレンジで温めてからギュッとまとめ、冷蔵庫に入れれば固くかたまりますよね?そんな感じです。
溶結凝灰岩は火砕流台地をつくる
この溶結凝灰岩は、主に火砕流でつくられます。
火砕流とは火山から噴出した火山灰や軽石や岩塊が高温のガスとともに斜面を高速で流れ下る現象のことです。
ものすごく速いため、近くにいたらまず助かりません。非常におそろしいものです。
高温のまま流れ、たいらな場所や谷底で停止したあと、いったん溶けてから冷えて固まります。ですので、てっぺんは平坦になり火砕流台地がつくられます。これが田代山湿原の平坦地形の原因だったんですね。
平坦な火砕流台地のてっぺんに、あちこちの火山から降ってきた火山灰が少しずつ積もって火山灰性の土壌をつくり、雨水や雪解け水が土に浸み込み、湿原ができたのでしょう。
もとが火砕流ということは、どこかの火山から流れてきたのですよね。
ちなみに火砕流って、カルデラ噴火の時に発生しやすいみたいなんです。
おや?福島県南西部はカルデラの巣窟でしたよね!
だんだんつながってきました。
ふるさとのカルデラはどこだ?
そういえば、すぐ近くにカルデラがありました。
20万分の1地質図幅「日光」:地質調査所
すぐ北にある木賊(とくさ)カルデラ。中心部には木賊温泉があります。
確かにこのカルデラ内にも同じ色の地質がありますね。
しかし!
この木賊カルデラを詳しく研究した論文(大竹ほか1997)があったので読んでみたのですが、田代山湿原の溶結凝灰岩は木賊カルデラとは別の火山から流れてきたということです。
木賊カルデラ内にある同じ色の地質は確かに同じ溶結凝灰岩で、広い範囲にポツポツと点在しているそうです。
それらを色々な地質学者が研究した結果、鬼怒川(きぬがわ)の最上流部が噴出源ではないか?という説が最有力だそうです。
大きい青丸が噴出源では?という場所。小さい青丸が田代山湿原です。
約20kmも距離があります。半径20kmの範囲で火砕流が流れたとすると、かなり恐ろしいですね。
名もなき火山の名残だった
それにしても、儚いものですよね。
田代山湿原をかたちづくっている溶結凝灰岩は、約500万年前の火山噴火で流れてきたようです。最低でも約20kmも火砕流が流れるような大きな噴火を起こした火山ですが、浸食が進んで痕跡はところどころにしか残っていません。
そのため、どんな火山だったのか?は詳しくは分かっていません。
などと思いながら、この辺りを散策してみるのも良いかも知れません。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
参考文献
山元孝広・滝沢文教・高橋 浩・久保和也・駒澤正夫・広島俊男・須藤定久(2000) 20 万分の1 地質図幅「日光」,地質調査所,7p.
大竹正巳・佐藤比呂志・山口 靖(1997)福島県南会津,後期中新世木賊カルデラの形成史.地質学雑誌,第103巻,第1号,P.1-20.