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サラリーマンこそ「ジブリ大博覧会」へ行ってみてほしい

週末、福岡で「ジブリ大博覧会」を見てきた。

掛け値なしの本心で言わせてほしい。最高だった。

精工に作られた迫力満点の王蟲や、すべての子供たち(いや大人たちも)が狂喜乱舞する、ふかふかネコバス。灯りをともしながら空を舞う飛行艇。これらももちろん素晴らしかった。


けれど私の心を撃ち抜いたのは、壁一面に展示された、色の褪せかけたFAX用紙たちだった。

そのFAX用紙は、映画のポスターに入れるキャッチコピーをめぐる、糸井重里さんと鈴木敏夫さんとの往復書簡だ。

ジブリの名コピーの数々が糸井さんによって生み出されたことは、広告好きの間ではもはや「常識」と言っていい。いや、広告好きでなくとも知っているくらい、有名な話だ。

このへんないきものは、まだ日本にいるのです。たぶん。(となりのトトロ)
生きろ(ものの毛姫)
おちこんだりもしたけれど、私はげんきです(魔女の宅急便)
タヌキだって、がんばってるんだよォ(平成狸合戦ぽんぽこ)

たった一言で、映画そのものを現している。まだ見ていない人には「観たい」と思わせ、すでに観た人には余韻を届ける。「魔女の宅急便」なんて、観終わったあとにこのコピーをもう一度読むことでやっと完結するんじゃないかとさえ思う。

そんな名コピーたちがどうやって生まれたのか、飾られたFAX用紙たちは雄弁に物語っていた。


この展示を見てわかったことがある。糸井さんの仕事は、どこまでもサラリーマンだった。それが泣けるほど嬉しかった。

私もいちおうはコピーライターの端くれなのだけど、よく勘違いされる。

なんとなく「それっぽい」の言葉を添えときゃいいんでしょ。一行書くだけで食べていけるんでしょ。お気楽なお仕事よねぇ。そういう風に。ときに憧れのまなざしで、ときに嘲りのニュアンスで。

「お前、コピーライターなんだから『いい感じ』のこと言えよ」とか「あだ名つけてよ」、などと飲み会の席でいじられることもしょっちゅうある。

だけどそのたび「違~~~う!!!!!」と心の中で叫んでいた。

コピーは仕事だ。ポエマーではない。あくまでアウトプットが「短い言葉」という形式なだけであって、コピーライターの仕事はマーケッターやデザイナーのそれとなんら変わりはしない。

「天才」「神様」と呼ばれるような糸井さんでさえ、やっぱりあくまで思考と戦略のもとにコピーを作っていた。相手がなにを求めているのかを聞いて、それに精一杯こたえる。ぽっと思いついた一言を添えてるわけではない。あの糸井さんでさえ。いや、糸井さんだからこそ。そう確信できたことが、嬉しかった。


しまった、つい熱くなってしまった。話を展示に戻そう。

まず、糸井さんが3~4つほどコピーを提案する。
それに対して、鈴木さんが返答する。
鈴木さんの戻しを受けて、糸井さんが修正案を出す。

基本的にはこの流れだ。もちろん採用される案は1つだけだから、泣く泣く没になっていった案もある。ふだん語られることのない、究極の舞台裏とも言えるだろう。糸井さんの没コピーが見られるなんて、それだけでも1400円払う価値は十分にある。

さらに、FAX上でコピーのプレゼンも行っているので、プレゼン資料として読むこともできる。どんな言い回しで提案をするのか。どこまで意図を説明をし、どこまで自分の意見を主張し、どのくらい相手に任せるのか。このへんの塩梅が、さすが超一流だった。ヘタなビジネス本を読むより、この数枚のFAXからのほうがよっぽど学べる。

糸井さんのコピー案に対する、鈴木さんの戻しもまた秀逸だった。自分の意見と、上の人の意見とを伝えつつ、ときに伝えづらいこともキッパリ言いつつ、でもあくまで糸井さんへ敬意がにじみ出ている。相手のやる気をそぐどころか、盛り上げるような気づかい。こんな戻しが来たら、最初の案がボツになったとしても俄然やる気が出てしまう。そんな戻し。

ときには「僕はAがいいと思っているのですが、専務はCがいいと申しており・・・」と言ったような生々しい文面もあり、「お偉いさんのセンスにどうも納得いかない」という事態はジブリでさえあるんだなぁ、、なんて勝手にちょっと親近感まで湧いてしまった。


写真撮影が禁止だったので、あくまで記憶だよりだけれど、いくつかのコピーを紹介しよう(記憶に全然自信ないです、話半分で読んでいただけると…)。


【となりのトトロ 没コピー】

・このへんないきものは、まだ日本にいないのです。たぶん。

(この案を見たとき、宮崎駿は険しい表情を浮かべた。その反応を受けて、「いるのです」に修正したそう)


【魔女の宅急便 没コピー】

・ひとり暮らしは、なきべそわらい

・はたらく女のコの物語。


【もののけ姫 没コピー】

・けなげとなんとか(←忘れた)のスペクタクル

・ハッピー?

・もーののけーっ!


【平成たぬき合戦ぽんぽこ 没コピー】

・タヌキだって、タヌキなりにがんばってるんだよォ(たぬきを下に見てる感じがする、と鈴木さん)

・タヌキって、人間さ(映画のメッセージそのまんますぎる、と鈴木さん)



いくつもの案がある中で、最終的に選ばれた案が結局はどれも普遍的な案であることも発見だった。公開から20年以上の月日が経っていたりするのに、だ。令和元年の人間が見ても、やっぱり全然色あせない。

いやぁ、これぞプロの仕事。頭の中では中島みゆきが鳴り響いていた。


名コピーの裏に、こんなにもかっこよく、人間臭いドラマが隠されていたなんて。目頭が熱くなっているのは私だけではないようで、「ねこばすまだ~?」と半泣きになっている子どもの片手を握りつつ、熱心に読み込む大人たちがたくさんいた。


仕事っていいなぁ。働くって、いいなぁ。


帰り道の足取りは、行きがけよりも軽かった。

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