君はアイリッシュジョークについてこれるか。全然平凡じゃない『平凡すぎて殺される』登場人物相関図と感想
『平凡すぎて殺される』
クイーム・マクドネル
青木悦子 訳
東京創元社
舞台はアイルランド、ダブリン。
老人ホームでぼけかけた老人の親戚のふりをして見舞うというボランティアをしながら暮らしてる"見た目が平凡すぎる"主人公(無職)。ある日ポールがボランティアで慰問に訪れた老人は、1995年に起きた富豪の夫人失踪事件(通称『ラプンツェル事件』)の後行方不明となっていたギャング、ジャッキー・マクネアであった。老人はポールを誰かと間違え、刺した後亡くなってしまう。
富豪夫人とギャングの若者フィアクラははたして世間で噂される駆け落ちだったのか、他に犯人がいるのか。そして現在起きているポール襲撃事件との関係は。助かるためには自分で事件を解決するしかない…!
とにかく出てくる人全員のクセが強い。アイルランドの国民的スポーツであるハーリングのスティックを持ち歩くバニー(しかもいつもなんか食べてる)をはじめとして、なんでもかんでも映画やドラマを引用する刑事のジミー・スチュアート、その部下のドナハー・ウィルソンはいわゆる最近の若者で予測不能だし、主人公ポールの相棒となる看護師のブリジットはまあまあ常識のある人物だが実録犯罪ものを愛しており捜査にノリノリ。そして妻の命令でゴルフに参加させられている強面のギャングのボス、ゲリー・ファロン。等々、脇役キャラももれなく濃い人物設定がされている。アイルランドは変人しかいないのかな?
そんな中、主人公のポールは見た目が非常に平凡であることをいかしてボランティア活動をしているわけだが、外見はともかく中身は非常に論理的で頭も良さそうなポールがなんでそんな変なボランティアをしているのか、なぜ働いていないのか。中身はまったく平凡ではない男の境遇があきらかになる。
そしてユーモアというのか、これ笑うところ?笑うの?というアイリッシュジョーク(?)が全体に散りばめられており、困惑しているうちに事件が転がりだし、あっというまに読み終わってしまった。なんかクセになるんだよなー!
ちなみにダブリン3部作といいつつ全5巻でシリーズ化しているそうで(なにそれ)、次巻も日本で刊行予定とのこと。
バニーが主役のシリーズもあるそうだが、どんな混沌になっているのだろ。こちらは刊行予定は不明。
以下ネタバレあり
クルーガー夫妻は心から愛しあっておりフィアクラとセアラは駆け落ちではなかったというラプンツェル事件の結末は予想がついていたが、作中随一の人格者ダニエル・クルーガーの人生を思うと彼が受けてきた誹謗中傷も含めてしんどいし、まさかフィアクラが生きていたとは。兄弟とはいえ、そこまでするものかしらね。
と、事件の感想はその程度で、ポールの生い立ちも含めてそれなりにしんどい…というところはありながらカラッとしていて、感情をひきずらず読めます。サスペンスというよりコージーの読書感。
とにかくキャラクターとその会話が楽しく、ポールを助けてくれる老人ドロシーはワニ町シリーズのSLSのメンバーを思わせる活躍ぶりだし、ダニエルは顔の半分が焼けただれ現在は要塞の如き邸宅にひきこもる大富豪、ボディガードは謎の年齢不詳系アジア人美女とその部下である大男二人組とエンタメの王道。
アメドラおたくの刑事が出てくるだけあって、意外とベタなエンタメのコツを踏まえつつ、クセの強い主要キャラクターとブラックジョークの連打でナンセンス感あふれる作品になってます。
そういう意味で好き嫌いがわかれるかもしれないですが、ちょっと珍味を楽しみたいな?みたいな気持ちの時に読むとハマる人にはハマると思います。次巻も楽しみ。