日記-20241119
意味もなく街を歩くのが好きだ。
…と、心の中でナレーションを入れて歩いた。本当は、ダイエット目的である。
夏が終わると、都会の街は歩きやすい。
すれ違う人々はそれぞれ個性溢れるファッションに身を包み、街全体が、先に控えるイベント用の装飾で輝いている。クリスマスを控える今は、暗くなるとイルミネーションが華やかだ。
ジャケットでは肌寒くなってきた。
「カート」に入れたままのブルゾンを買ってしまおう、と思い至ったが、数日後の方がポイントが貯まるし、そもそもこのくらいの時期の服って、すぐ着られなくなる割に流行の移り変わりが激しいんだよなあ、なんて、今年もきっと例年通り、秋服を持たないまま過ぎていくのでしょう。
子供の頃はしつこく秋服をねだっていたな、と思い出す。
大人になって意識が低くなったのかしら、いやそんなことは許されない、ということで、おそらくブルゾンは買います。
秋服も春服もどんどん買っていく。資本主義に踊らされて生きる。いいえ、私の意思で買っています、と、自分に向かって叫びながら。
流されやすい性分だったとして、それの何が悪いのだろう。だけど私は、そう思われたくないな、と思う。
自分らしさを、自分の考えを大切にしてきたつもりなのに、流されているようなことをしたくて仕方がなくて、なのにいざやってみても、その行動を根拠に「流されやすいんだね」とは言われたくない。
いいえ、「あえて」です。
あえて、私は普通っぽさを演出しています。
私は自分のことを、「普通っぽさを演出しなければいけないくらい変わった人」だと思いたいのかもしれない。いや、思いたいどころの話ではないだろう。知ってほしいのだ。常軌を逸した変人の私を。
私がもう、東京で一番、日本で一番、世界一の変人だと、世界に知らしめたくて仕方がない。
知らしめてどうするのか?
「ほら見て!あの人。世界一の変人の吉屋さん!」
「本当だ。すごいなあ、世界一の変人だなんて」
「まさかこの街から世界一が出るなんてね」
噂する街の人々を気にも留めず、秋風を肩で切って歩く。たまには手くらい振ってみせるかもしれない。
まあ、一応「世界一」なんて言われてしまっているみたいですね。ははは、なんだか恥ずかしいですね…。私ってそんなに変わってますか?
家の階段の一段目に躓いて我に返る。
残念ながら、世の中かっこいい変人ばかりではないのだ。なぜ、わかっているのにいつも一段目で躓くのか。
よくいる変人、普通はしない失敗ばかり繰り返す、どこにでもいる変人。
変人Aとして慎ましく生きていこう。
ブルゾンはやっぱりいらないかもしれない。
多分、届く頃にはコートの季節だ。