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迷彩バターで朝食を

今朝、パン屋さんで買った、少しだけ良い食パンの上で発酵バターをじゅわりと溶かしているときに、ルワンダのバターのことを少しだけ思い出した。

私が住んでいた場所にはもちろんバターなんて売っていなくて、無いなら無いでさほど困りはしなかったのだけれど、あの豊潤な香りが恋しくて、一度だけ首都で買ったことがある。

見たことのないパッケージのバターを奮発して買い、5時間半かけて大事にバスで運んだ。

帰宅後すぐに冷蔵庫に入れて、次の日の朝、意気揚々とふたを開けた。

迷彩柄だった。

「ゴルゴンゾーラだよ」と言われても信じるくらいには、青カビが生えていた。

しかし、せっかく手に入れたバター。腐ってもバター。

苔むした箇所を丁寧に取り除き、水分含有量ゼロのパンに塗って食べたら、私の知らないバターだった。でも、底見えするまで使い切った。

それから数か月後に母から発酵バター入りのクッキーが届き、その香り高さにぶっ倒れそうになった。私は日本のバターの味を忘れかけていた。


そんな場所で暮らしていたのも、今からたった4~5か月前のこと。

ここでも何度も言っているように思うが、ルワンダで流れる時間と、日本で流れる時間は違う。

ルワンダの24時間は、日本の48時間…もしくはそれ以上あるように思える。

向こうにいたころは、毎日無理矢理にTo Doリストを書きだし、どうこの24時間を消費しようかと、日々頭を悩ませていた。

1人で過ごす時間が圧倒的に長く、日暮れ後には自分自身と向き合わざるを得ない。

考えなくてもいいことを延々と考え、叫びだしたくなるようなこともあり、それをnoteの執筆という私なりのメディテーションでどうにかしていた。

なかなか厳しい日々ではあったけれど、残した文章たちはあの頃のありのままの頭の中を表してくれていて、自分でもたまに読み返したりなんかしている。



こちらにいると、To Doリストはどんどん増え続け、一つ片づけたら二つ増え、二つ片づけたら三つ増えるなど、ポケットの中のビスケット状態である。

「やりたいこと」と「やらなきゃいけないこと」の区別が曖昧になり、「やりたいこと」のための「やらなきゃいけないこと」も増え、もはや叙情的な独り言で頭がいっぱいになることなど、ない。

一行で済むことに特盛のトッピングを施して感傷に浸る隙が、ない。

私のクローンが欲しい。
いや、クローンだと食費やら何やらがかかるので、AIロボがいい。




でも、じゃあ、忙しくて辛いか、と言われたら、「いいえ」と即答する。


猫の腹を大きくひと吸いしてバス停まで走る朝が、休憩室で机に突っ伏して仮眠する昼が、睡魔と闘いながら笑顔を作る夕方が、夫の手料理を頬張ってソファで寝落ちしてしまう夜が、卵かけご飯をかき込んでミシンへ向かう休日が、たまらなく、楽しい。

毎日アフリカ布のことを考え、リモートで布選びをしたり、どんな洋服を作ろうか、どんなイベントをしようかと悩み、広報や経費精算に追われ、生活費を稼ぐためにアルバイト。


こんなに、好きなことのために没頭できるということ。
なんて幸せなんだと、心から思う。


ルワンダにいて、一番つらかったことの一つが、「自分の存在価値が、”日本人であること”しかない」ことだった。

村のみんなや同僚に好かれてはいたが、別に私の性格や価値観、持っている知識や技術を尊敬し、好きになってくれる人なんてほとんどいなかった。

言葉の壁だけの問題ではなかった。

”優しくて明るい日本人の女”でしかない私。

今まで努力で手に入れてきたものを認められない場所で、二年間生きる辛さというのは、相当なものだった。

おそらく、実力派の芸人たちが顔ファンを嫌うことにも通づるのではなかろうか。

だから、どんなに忙しかろうが、自分らしく生きられる、好きなことにたくさんチャレンジできるこの環境が、幸せ。


先日30歳になった。

「この年になると別に誕生日なんて嬉しくないよね~」なんて言う人がいるが、「なんて奴だ!!!!!」と思ってしまう。

私は、誕生日が大好き。

だって、30年間大きな病気もケガもなく、ハッピーに健やかに生きているなんて、本当に本当に素晴らしくて有難いことだろうが。

10か月間もお腹の中で大きくしてくれて、分娩台で悶絶しながら生んでくれた親に、一年に一度思いを馳せるべきだろうが。

年を重ねることは、生きているということ。生きているということは、生かされているということ。

そんな尊いことを、「嬉しくない」だなんて、あまりにも罰当たりである。

次の誕生日を迎えるまで、あと一年。

毎年経験値を上げて、胸を張って年齢を言えるような、そんな大人でありたいね。



さて、久しぶりに天才ハッカーのごときスピードでキーボードを連打しているが、今私の仕事部屋は空き巣侵入後レベルの状態にある。

仕事部屋をこさえて以降、締め切りに追われて制作活動をし続けていたため、物品整理が全くできていない。

ああ、今年中に何とかしたい。

誕生日プレゼントとして母にもらったプリンターも、まだ段ボールの中である。ああ。

ああ。

ああ。

ああ・・・



素晴らしきかな、日常。

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