海の魔力 / 母の顔
車の運転はそんなに上手ではないですが、ドライブは好きでした。
好きな音楽を大音量で流し、大声で歌っても気兼ねない1人の時間。
落ち込み始めた頃だったでしょうか。
胸にモヤモヤしたものが溜まると、気分転換にドライブに出ました。
行き先は決めず、その時の気分で車を走らせます。
私は基本的には山が好きで、見晴らしのいいところまで車を走らせ、広がる山の景色を眺めながら、どうしようもない心のモヤモヤを持て余していました。
あるとき、その頃は胸のモヤモヤが溜まり、「4にたい」という言葉が出始めた頃だったかもしれません。
いつもなら山に向かうドライブが、気がつけば珍しく海に向かっていました。
いつもより少し遠出の海。
そこは地元ではちょっとした観光地となっている、崖から海を見下ろすような景観の地でした。
一度そこの海で過ごしたら、それからは時間があるとその地へドライブするようになりました。
初めは車中から海を眺めて過ごしていましたが、次第にもっと近くで海を見たくなり、ゆっくり眺められる場所を探して侵入禁止の策を越えて崖の端まで行くようになりました。
崖の上から波の動きを見ていると
自然と吸い込まれていきそうな錯覚に陥ります。
吸い込まれるように…
そして
吸い込まれてもいいかな
なんて思いがよぎったり。。
そんなときはふと、車がここに置きっぱなしじゃあ家族が困るだろうななんて現実的な思いが湧いてきたりしました。
波を眺めながら、何か考えているようで何も考えていない時間を過ごし…
そんな時間を過ごしたあとは、いろんな感覚がぼーっとしています。
崖の端からの帰り道。
侵入禁止の策に戻るまでは足場が不安定な小道です。
ぼーっとした感覚のまま不安定な小道をふらふらと歩いていると、このままふらっとバランスを崩して落ちてもいいかななんて思いも顔を出したりしました。
そして。
本当に足元がふらっとしたとき。
突然。
母の顔が浮かびました。
何か言葉が降りてきたわけではなく
本当に突然。
ふっと。
映像のように母の顔が見えて。
びっくりして
少し目が覚めたような気がして。
それからはモヤモヤしたときは海に行くのはやめることにしました。