【小説】才能

不幸にも価値がある。

幸せだけではなく、不幸が金になるということが分かってからは早かった。
誰かの不幸も、他の誰かにとっては幸せなのだ。

悲劇、喜劇、教訓。

他人の不幸の楽しみかたは人それぞれ。

相対的に自分を見ることで、ようやく自分の輪郭が認識できる。
そんな人はたくさんいる。

下を見ることで、自分はまだ大丈夫だと錯覚し、安心して眠れる人も多い。

つまり!

今あなたがするべきことは、不幸を嘆くべきではなく、どう活かすかを考えること。

直接的な表現をするのならば、「どうやって金に変えるか」が大切なのです。

不幸を感じやすいというのは、ある種の才能。
しかも他人よりも進んだ、次世代の才能なのです。

ただ不幸であると信じ、悲哀に満ちた感情で世界を感じ、生きるだけで、ザクザクお金が貯まる。

身を削って人に尽くすことも、理不尽な上司に従うことも、興味のない製品を売るために試行錯誤する無駄な努力も必要ありません。

もちろんそれらも不幸ですが、常に不幸でいられるあなたには前時代的なもの。

晴れれば日差しを鬱陶しく感じ、雨が降れば濡れると嘆く。
これは神から与えられし贈り物、ギフトと言わずになんと形容しましょうか!

我ら「G4(ジェン・ジェノ・ジェニック・ジェネティクス社:略してG4)」グループは、あなたの不幸を高く買取ります!



「お疲れ様、今日はどうだった?」

「どうもこうもないよ」

「お仕事、うまくいかなかったの?」

「ああ。最近はみんな幸せそうだ。こちとら契約がとれなくて、また部長に叱られそうだよ」

男は「G4」とロゴの入ったカバンを下ろし、ネクタイをゆるめながらつぶやく。

「ああ、俺はなんて不幸なんだ」

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