忘れかけていたもの、乗り越えたもの、抱きしめたいもの
3月31日(日)
結葵(ゆうき)と申します。
— 孤独に沈潜する
大学の卒業式を迎えてから、はや2週間が過ぎようとしている。2週間目を迎える次の月曜日は、ちょうど4月1日。仕事が始まる日だ。
ここ数週間、色々な著者の本を読んでいた。中井久夫、浅田彰、小林秀雄、立木康介、などなど。特に、今月は精神分析に集中していた。医者に世話になったことはないけれども、どこか神経症っぽい症状があると感じずにはいられない。中井久夫の描写する分裂病(統合失調症)患者の姿を読んでいると、なんとなく「ああ、その通りなんだよ」と膝を打つことが多々ある。
今日、引っ越しのダンボールを漁っていて、懐かしい本を引っ張り出してきた。2冊あって、ひとつは齋藤孝『孤独のチカラ』、もうひとつは『戦没学徒 林尹夫日記[完全版]—わがいのち月明に燃ゆ—』。
曖昧な記憶を辿れば、どちらも大学3年になったばかりの頃に読んだ本だったと思う。あの頃は、まだ大学院に行きたくて仕方なくて、それしか進路を決めていない時期だった。2020年に広がった伝染病で、その年はずっと実家に閉ざされていた。そこからやっと解放されて、少しずつ勢いを取り戻そうという意気込みで読んだ本だった。
パラパラとめくってみると、ところどころマーカーや赤ペンで線を引いているのが分かる。今でこそ、多種多様な本を出版している齋藤孝さんだが、この本の第一章では、ご自身の「暗黒の十年」を赤裸々に語ってくれている。その上で、試しにマーキングしているところをひとつ拾ってみる。
「単独者」とは文字通り、群れる・つるむことから離れ、自ら積極的に孤独になることを選ぶ人のことであるが、当時はこんなにも自分が心で感じていたことを明快に代弁してくれる言葉に驚いたものだ。
「単独者」が単独者たるゆえんは「いまの自分は、本来の自分ではない」という、いわゆる自分に満足していない、期待するエネルギーが有り余っているからである。そのためには「結果を出せ」と本書では言われている。内発的なエネルギーを溜め込んでいては、内側で爆発するだけでそれはよろしくない。抽象的な思い込みに支配されず、具体的に努力し行動し「結果を出す」のだ、と。
だが数年経って、そこは乗り越えた(とでも言えるだろうか)。もはや「結果を出す」という言葉を「大きな成果を出す」という意味で捉えることはない。いわゆる「社会的成功」や「競争に勝つ」という論理は駆動していない。純粋な鍛錬、知的水準の向上、精神的豊かさへの憧憬。生き方としての哲学。その道のりを歩んでいくための「単独者」。誰にも私を無碍にできない、させない。ディオニソス的なエネルギーの正直な放出。
改めて読み返していて、新たにマークした箇所もある。
ここ数日、ほんとうに何もうまくいかない。養老孟司なんかを読んでいると、そちらのほうが普通だとも言えるのだが、やはり受動的に身体を転がされているだけの感覚は、受け入れ易いものではない。
今日は特に暑くて、部屋のなかじゃ我慢できなくなって、車で涼んでいた。そこでラジオを聴いていたのだが、偶然、というものは本当にあるものだな、ここ何日か考えずにはいられなかったことを、その番組のリスナーも大体同じように考えている。
メールが読まれるたびに「新しい職場(や環境)で、周りに馴染めるか不安です」という内容がやって来るのだ。だが、僕が考えずにいられなかったことは、これとは少しズレている。純粋に疑問なのだが、どうして「周りに馴染まなければいけない」とでもいう強迫に駆られているのか不思議なのだ。
それこそ「単独者」を思い出す。
『わがいのち月明に燃ゆ』は、そんな「単独者」を語る『孤独のチカラ』のなかでも言及されていた本で、戦没学徒とあるように、林尹夫は大学在学中に学徒出陣させられ、志半ばで戦死した。この日記は、戦時下にもかかわらず知的好奇心と野心を捨て去ることなく、常に自己を見つめて知的成長の努力を惜しまない人であった。
本書も、今日改めて読み直した。感銘を受ける文章に出逢った。良い読書だ。
この数年でいろいろ経験して、いろいろ勉強して、忘れかけてしまっていた。気付かないうちに捨て去ってしまおうとしていた。それを今日、もういちど拾った気がする。目に入って、なおかつ拾ったということは、まだそれが自分にとって手放したくないものなのだろう。実際、私はこの過程を踏むことによって精神を形成してきた。いくらここに反動があるからといって、無下にすることはできない。
私の呼吸の仕方が間違っていると言いたいのなら、これまで私が読んできた本をすべて読んできてほしい。でも、それは結局無意味に終わると決まっている。なぜなら、これからも僕は「もしかしたら間違っているかもしれない」と思って、本を読み続けるから。追いつけやしない。
夢を見ることは青春の特権だ。
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