
『僕と私の殺人日記』 その32
※ホラー系です。
※欝・死などの表現が含まれます。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
おかあさんの顔を見ると、口から血が流れていた。目はうっすら開けた状態で止まって いる。死んだみたいだった。
自分の身体を見る。手をグーパーして身体が自分のものだと確かめた。まだ入れ替わりは起きていない。
「なんだ? どうかしたのか、母さん?」
どうやら、おかあさんの声でおとうさんが起こしてしまったらしい。目を擦りながら起き上って、こっちを見た。
しばしの間、ぼーっとしていたおとうさんの顔がしだいに凍りつく。 カーテンの隙間から雷がわたしを照らす。おとうさんは座ったまま、後ろへ遠ざかる。 お尻をつけて、手と足でゆっくり移動する。
「お前は・・・リナか? なんで母さんを・・・」
震えた声でおとうさんが聞いてくる。わたしはその質問を無視した。
「どこで育て間違えたんだ? リナは人を殺す子じゃない!」
おとうさんが叫ぶ。
暗闇に慣れられると面倒なので、すぐに殺すことにした。床を蹴って、おとうさんに飛び込む。慌てたおとうさんは両手を突き出して、わたしを止めようとしていた。
その無駄な抵抗をわたしは避けて、左側に回り込む。右手に持っていたナイフで。おとうさんの首を一気に切った。
首から血が溢れて止まらなくなったおとうさんは、手で抑えようとするが、やがて目の色を失った。失血死したみたいだった。腕が床にだらしなく垂れる。
良太は自分の部屋で寝ていた。布団に潜り込んでいたので、布団を慎重にめくると、猫 みたいに丸まってすやすや眠っている。そこにナイフを突き立てる。 首筋に刺さり、固い感触がした。骨も貫通したようだ。きれいな寝顔だったので、首を切り取ることにした。
小学二年生の首は柔らかくて、簡単に切断できた。よく見えるように勉強机の上に置いた。
時々、窓から光る電光が弟の顔を、カメラのフラッシュみたく鮮明に照らした。 頭があった場所には血の海ができていて、丸まった身体はまだ夢の中にいるようだった。
胴体はどうでもよかったので、布団をかぶせて部屋を出た。
結局、ユウくんと入れ替わることはなかった。 わたしを受け入れない人は許せなかった。
家族はユウくんを選んだ。たかだか数日前に 生まれた人格を信用した。
わたしの気持ちも知ってほしかったのに。
動いて疲れたわたしはシャワーを浴びて、寝た。その時には、雷の音は落ち着いていて、 よく眠れた。
そして起きると・・・。
ようやく昨夜の出来事をはっきり思い出した。 ここは夢の世界ではなく、現実で間違いなかった。
わたしは一晩で家族を失ったのだ。
でも、悲しくなかった。涙も出なかった。何の感情もわかないのが不思議なくらいだった。
もしかしたら、ユウくんがその気持ちも肩代わりしているのかもしれない。わたしはそう思った。だとしたら、今、ユウくんはどうなっているのだろう。考えるだけで楽しかった。
窓を見ると、雨が上がっていた。雲の切れ目から日光が降り注いている。自由になったわたしは外に出た。
もう泥だらけになっても怒られることはない。お小遣いも減らされないし、田んぼのお手伝いもしなくていい。
両手を広げて、わたしは山を駆け下りた。全身に当たる風が気持ちいい。空気が温められて、冷気に敏感な肌も満足そうだった。
ポケットには、わたしの自慢の殺人道具が入っ ている。人を殺したいという願いをかなえてくれる最高の道具だ。
わたしはその道具をくれたユイカちゃんのもとへ急いだ。
続く…