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令和に行く、18世紀ヴェネツィア。

令和の世。今なら、電車で気軽にヴェネツィアへ行けてしまうので便利にも程がある。パスポートが不要なのはもちろん、時代は18世紀である。

早くから前売り券を確保し、週末にいざ行かん。
新宿にあるSOMPO美術館で開催中(~12/28)の「カナレットとヴェネツィアの輝き」展だ。

カナレット(1697-1768)は、都市の景観画(ヴェドゥータ)の巨匠と呼ばれ、18世紀のイタリア、ヴェネツィアの風景を描き人気を博した画家。これまでも何かの展覧会で一、二点展示されることはあったが、特集される展示会は今回が日本初だという。

一枚撮ってから入ることを忘れない

最近は写真撮影可能な作品も多いため、今回もスマホの充電はいっぱいにして出陣。そして期待通りの成果だった。主役(カナレット)からどうぞ。

「サン・ヴィオ広場から見たカナル・グランデ」65×83.8cm

広い空と運河。まさにカナレット。撮影可能でありがとう。

ベランダから身を乗り出す女性が気になる。

細密画は、写真以上に現実感が漂っている。神は細部に宿る、ではないが、細部までドラマを感じさせる。

「カナル・グランデのレガッタ」149.8×218.4cm

レガッタは、ボートレースのこと、と親切なパネルつき。

離れても近づいても楽しめる

作品自体のサイズからも迫力があるため、大きな窓からレースを鑑賞している気分になる。大勢の歓声が聞こえてくるようだ。

「昇天祭、モーロ河岸のブチントーロ」58.3×101.8cm

背景の赤が、画面をより際立たせて魅せている。引き寄せられる。

額装も気になる

そういえば、カナレットの署名を見ていない。書かない人のようだ。額装に名前が記載されている。美術館で作品を鑑賞することの魅力は、額装も含めて絵画を楽しめるところだ。作品を愛する者によるこだわりの額装は、絵画に寄り添って美しい。

「ロンドン、北側からウェストンミンスター橋を望む、金細工師組合マスターの行進」44.5×74.9cm

ロンドンの姿も描いていたのか、それにしても開放的な作品である。
解説を読むと、実際にこの視点からこの風景を眺めるのは難しく、さらに橋の工事完了と、作品の描かれた時間軸が合わないという。
依頼主が見たい風景を描くのがカナレットなのだろう。細密画だが、現実ではなく、現実以上に記憶に残る風景を描くのだ。

ロンドン市の旗らしきもの発見!

版画や素描も残していることを知った。貴重な作品の数々も展示されている。

エッチング(銅版画)

カナレットの時代のカメラ・オブスキュラというものも展示されていた。

左右反転して対象物を見ることができるという

実際に体験できるコーナーがあり、わたわたしていると、学芸員さんが声を掛けてくれた。頭を入れて、箱の下を覗き込むと、正面のカナレット(肖像のプリント)が左右逆に見えるという。試してみると、うっすらと見えた!

奇跡の空間

その後、別のご婦人達がうろうろしていたため、学芸員さんに教わった通り、勝手にお知らせしてみた。本物の学芸員さんの方がよかったのだが、周囲に見当たらなかったので仕方ない。まるで知っている人のように堂々とお伝えしてみた次第。
「ああ~うっすら見えるわ~」と言ってもらえたため、伝達は成功である。

階段の壁にもカナレットさん

そういえば、カナレット以外の画家も多数展示されていた。
景観画の分野を築いたカナレット以降の画家達である。

ミケーレ・マリエスキ「リアルト橋」62.2×96.6cm

カナレットではないが、圧巻の風景。

明るい世界、この質感の眩しさよ

人々の表情は見えないが、見えないからこその物語がある。

ウィリアム・ジェイムズ「スキアヴォーニ河岸、ヴェネツィア」94.6×152.4cm

物語があり、そこに暮らす人、行き交う人の息づかいを感じることのできるものが景観画だと思う。

近づいてみると、人と、動物が。

知らない画家が多かった。知ること、出会うことのできたたくさんの画家達に挨拶している気分だ。さて、この人は・・・

作者不詳「カナル・グランデ:サンタ・ルチア聖堂とスカルツィ聖堂、ヴェネツィア」37.1×55.3cm

ついに作者不詳の名作との対面だ。小品だが、確かな存在感。カナレット同様、絵に署名がないのだろう。でも、作品は生きてここに居る。

展示の終盤に突然別世界が。まさかの印象派?

クロード・モネ「サルーテ運河」100.2×65.2cm

そうだ、この展覧会は「カナレットとヴェネツィアの輝き」展だったではないか。このあたりは、「ヴェネツィアの輝き」コーナーだったのか。油断した。

ポール・シニャック「ヴェニス、サルーテ教会」72.5×90.9cm

この色彩の鮮明さを見よ。混じり合うことのない点描が、明るいヴェネツィアの世界を体現している。カナレット特集なのに、うっかり違う作品にも魅了されて展覧会が終わりそうなため、まだ書いていないことにも少し触れておこう。

カプリッチョ

カナレットやカナレット以降の画家達は、カプリッチョ(奇想画)と呼ばれる作品を描いている。現実とは違う何かを混ぜた景観画だ。例えば、ロンドンのセントポール大聖堂とヴェネツィアの運河を同じ画面に描く作品など。今回の展覧会でもいくつか紹介されていたが、写真撮影不可の作品だった。口惜しい。目を見開いてじっくり記憶の写真を撮っておくことにした。

それほどまでにこの時代、人々に景観画が求められたということなのだろう。記憶に残る、思い出に残る、現実以上に印象的な作品世界を創出しようとしたのだ。

まだ見ぬ出会いに思いを馳せて

心地よい疲労感と共に帰宅して、図録を開いた。
そこには見知らぬ作品がいくつも掲載されていた。まさか、見逃した作品があったのか? 写真を撮るのに夢中になって心の目を閉じてしまっていたのか? 否、そんなはずもなく、よく目録を確認すると、東京会場には20点ほど出ていない作品があったようだ。図録で見ることができて嬉しい限りだが・・・他の会場に飾ってあるらしいいくつかの絵に思いを馳せ、ページをめくる。

気軽な18世紀の旅は、帰宅後も続いている。
さて次は、どの国の、いつの時代に行こうか。

【カナレットとヴェネツィアの輝き】 | SOMPO美術館

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佐藤ユンコ@ゑまふ
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