歴史と物語の生きる場所
以前テレビでも紹介され、ずっと気になっていた古書店に行けた。その名も「永森書店」。数年前に現在の場所に移転し、神保町A7出口を出てすぐという、ザ・古書店街と言える立地で、分かりやすい路面店だ。
しずしず扉を開くと、入口近くの棚の前で腰を屈めて熱心に商品を物色しているお客さんが目に入った。大きなキャリーケースも置かれている。
どうしよう、邪魔だ。
すると一瞬の心の声が伝わったのか、無言で立ち上がって通路を空けてくれた。古本を愛する人は皆優しい。よい店にはよい人が集まるということだ。
私もよい人になろうと、静かに店内を見て回った。
このお店は、古地図や葉書、戦中資料、歴史書などを扱う専門店だ。店内すべての棚に地域ごとに分類された古地図、国ごとの書籍などが所狭しと並べられている。
こんなに貴重な資料(もちろん商品だが)を勝手に載せていいのかと思った方のために言っておこう。当然、写真撮影許可はいただいている。
「お店に来た思い出に、ここに行ってきた~みたいにSNSに載せてもよいですか?」
という無遠慮な声がけをしたところ、お店の方は穏やかな笑顔で「いいですよ」と言ってくれたのだ。
ああ、こういう看板って昔あったなぁ、懐かしいなぁ・・・
なんて思う人も絶対いるだろう、時代を感じるこのデザイン!
テレビの長寿番組、なんとか鑑定団の世界だ、とテンションの上がった私は、記念に絵葉書を購入しようと漁り始めた。
すると、出る出る。セピア色で品のある人物写真や、風景写真が絵葉書になっているものに、海外の絵画葉書も美しい。宛名の書かれている(使用済み?)葉書や五厘切手のついた葉書(明治時代!?)なんて、興奮しない方がおかしい。
全部見るのに数時間かかるかも・・・嗚呼、すぐに選べないことの楽しさよ。
お店の人によると、最近は海外のお客さんが多いそうだ。そのため、海外の方向けに、富士山の絵葉書をまとめて見やすい場所に置いているとのこと。
そう言われたら、日本のお客さんである私も富士山が欲しくなり、富士山コーナーも物色。
そういえば最初に入り口通路を塞いでいたキャリーケースの人物・・・ひょっとしたら海外の方だったのではないか、と想像してみる。
初めての日本で、日本らしいお土産を探していたその人は、古本の街神保町に迷い込み、導かれるようにして永森書店へたどり着いた。そこで富士山の絵葉書を見つけて嬉しさのあまり恋人に・・・
おっと、思わず想像が勝手に物語を作ってしまうところだった。
あれ、私は今どこにいるのだろう。
明治・・・じゃなかった、令和6年だ。そうだそうだ。夢のような世界にずっといたい気はしたが、また来ようと心に決めて、たくさんの物語たちに後ろ髪を引かれるようにして出口へ向かった。
最後に私がいくつか購入した絵葉書の一部をこっそり公開。
永森書店は、歴史と物語の眠る、いや、今も生きる令和の異界だった。
いつか故意に迷い込みたい。