ロリン・マゼール&ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 / ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」 【妖しさ全開の黒魔術ワールド】
もう1枚「春の祭典」の名盤(迷盤?)を。Yuniko noteのクラシック音楽編にたびたび登場しているロリン・マゼールが、名門ウィーン・フィルを指揮して録音した「春の祭典」の異色の名盤(迷盤?)です。
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団について
ここで演奏しているウィーン・フィルハーモニー管弦楽団は1842年創立。リヒャルト・ワーグナー、ブルックナー、ブラームス、ヨハン・シュトラウス、グスタフ・マーラー、リヒャルト・シュトラウスらの大作曲家が指揮台に立って自作を演奏している。
モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームス、ヨハンとリヒャルトの両シュトラウスの演奏では、他の追随を許さないと言われている。
本拠地のウィーン楽友協会ホールは世界屈指の音響のよいホールと言われ、最強音でも音割れせず溶け合った響きを出す。音色は優雅で典雅でまろやか。練り絹のような弦。少しくすんだ管楽器。昔ながらの牛革を張ったティンパニ。他のオーケストラとは違う独特の響きがある。
実は彼らの本職は別にあり、全員がウィーン国立歌劇場のオーケストラ団員。ウィーン国立歌劇場は連日オペラ公演があるため、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団としての活動はその合間を縫っての活動になり、定期演奏会は年間10回程度。定期演奏会の指揮台に招かれる指揮者は世界の超一流指揮者ばかり。カラヤンもマゼールも、生前はウィーン・フィルの定期演奏会の常連指揮者だった。
マゼール&ウィーン・フィルの「春の祭典」
前段でウィーン・フィルの音色を「優雅で典雅でまろやか」と記しましたが、そんなウィーン・フィルが奇抜な楽器奏法と不協和音が満載の異教徒の秘儀を描いた曲を演奏する・・・・。もう、聴く前から異色の演奏になることが予想されますね。マゼール&ウィーン・フィルの「春の祭典」は、並み居る「春の祭典」のレコード、CDの中でも、群を抜いて異色の演奏です。
ある評論家がこの演奏を「黒魔術の儀式を表したようだ」と評していましたが、「あ!言い得て妙だ」と思いました。
冒頭の苦しそうに演奏するファゴットから妖しい響きに満ちています。管楽器が強奏される場面では悲鳴のような響きになります。それを彩る弦楽器の練り絹のような音色・・・・。モーツァルトやベートーヴェンでは魅力満点のウィーン・フィルの弦の音色が、「春の祭典」では何とも不釣り合いです。
第2部の「いけにえの賛美」に入る前に、フルオーケストラの強奏で4分の11拍子の不協和音の連打があるのですが、他の演奏では「ズン!ズン!ズン!ズン!ズン!ズン!ズン!ズン!ズン!ズン!ズン!」と早めのテンポで演奏されるところが、マゼールは「ズゥン!・・・・・・・・ズゥン!・・・・・・・・ズゥン!・・・・・・・・ズゥン!・・・・・・・・ズゥン!・・・・・・・・ズゥン!・・・・・・・・ズゥン!・・・・・・・・ズゥン!・・・・・・・・ズゥン!・・・・・・・・ズゥン!・・・・・・・・ズゥン!・・・・・・・・ズゥン!」と超遅いテンポのウェイトを乗せた不協和音。「春の祭典」のこの部分でこんな演奏をしているのはマゼールだけです。
ウィーン・フィルは本職は歌劇場でいわゆる「劇伴」をしているオーケストラのためか、場面転換は非常に巧みです。
と、こう書くとハチャメチャな演奏のように感じられると思いますし、実際かなり常軌を逸した演奏なのですが、一度聴くとそれこそ黒魔術にかかったように何度も聴きたくなる妖しい魅力に満ちています。
そして・・・・日本の評論家たちからも、絶賛とは言いませんが、一目置かれている演奏でもあります。初発売から50年以上経つはずですが、レコードでもCDでも再発売を繰り返している演奏です(つまりよく売れる)。
付け加えるならば、ウィーン・フィルによる「春の祭典」の正規レコーディングは、現在のところこれが唯一です。放送局が収録したライヴをCD化したものはあるようですが。
マゼールはのちに、クリーヴランド管弦楽団、バイエルン放送交響楽団と再録音をしていますが、これほどの異色の演奏ではなくスマートな演奏です。晩年にウィーン・フィルとも演奏し、YouTubeにも音源が上がっていましたが、やはりスマートな演奏でした。例の4分の11拍子の不協和音の連打も「普通よりもちょっと遅めで重めの音だなー」というくらいになっていました。
次回予告 マゼール&ウィーン・フィル / チャイコフスキー「1812年」&ベートーヴェン「戦争交響曲」 【大作曲家の駄作集】
ベートーヴェンやチャイコフスキーといった大作曲家にも駄作はあります。名指揮者ロリン・マゼールと名門ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団は、大作曲家の駄作を集めたアルバムも作っています。