パリこでかけモロッコ編③ ラムとクスクスとフライドポテト
パリこでかけモロッコ編、第1弾(砂漠とピンクとコバルトブルー)、第2弾(市場と驢馬と香辛料)に続く第3弾、今回はモロッコの、そしてこの旅中に気づいた“食”についてお伝えします。
◆モロッコ料理とは
第1弾に続きまた世界遺産ネタですが、イタリア・ギリシア・スペイン料理等と共にモロッコ料理も“地中海食”として2010年に無形文化遺産に登録されています。モロッコ料理はその地の歴史を表すかのように非常に多様で、元々住んでいたベルベル人の料理・海を面して一時はムスリム領だったスペイン料理・トルコ料理等の様々な料理の影響を受けています。また、砂漠という事もあり水を使わなくても美味しく仕上がるタジン料理が有名です。ハラルという事もあり、肉は羊肉と鶏肉が主流です。野菜は大変豊富で、ナス・ズッキーニ・パプリカ・トマト等の野菜をふんだんに使った料理が提供されました。写真はモロッコ料理レストランで戴いた前菜。右上から時計回りに人参のマリネ、黄ズッキーニの砂糖マリネ(激甘)、揚げナスのペースト(激旨)、緑ズッキーニのライムマリネ。それぞれ味付けが特徴的で大変美味しくいただきました。
◆ラム(ハラールについて)
少し話はそれますが、今回の宿泊プランはオールインクルーシブで3食ブッフェ形式で頂ける内容で、宿泊客はざっと見た感じヨーロッパ系50%・アフリカ系49%・アジア系1%(我々夫婦だけ!)という構成でした。
モロッコはイスラム教スンニ派が99%をムスリムの国、レストランにはハラールマークがあるのかなと思って初日にレストランを訪れた私は戸惑いました、どこにもハラールマークなんて無いのです。その後、ホテルや街中のレストランを観察してやっと理解しました、ハラールは前提で、当たり前すぎて、ハラールマークなんて必要としていないのです。街で売られているのも当然の様に羊か鳥。水にもコーラにもあえてハラールマークなんて付いていません。
この事実は私の中では結構衝撃でした。日本でハラールが広く知られる様になったのはここ数年ですし、観光業の皆さんは対応に苦労しながらもハラールマークをつけるホテルや飲食店も増えて来ていると思いますが、そういうレベル感では無いと気づきました。衣食住に関して当たり前の事が当たり前で無い外国を旅行する事はかなり骨の折れる事です。日本人の感覚に例えるならば、トイレットペーパーがトイレに備えられていて当たり前と思って生きてきたのに、ガイドブックに「トイレットペーパーは持参必須」と書いてあったら衝撃を受けると思いますが、おそらくハラール対応無しという事は、ムスリムの皆さんからしたらそのくらいのインパクトかもしれません。
だからこそハラール対応が当たり前のここマラケッシュはムスリムの皆さんのバカンス地であり、同時にヨーロッパの皆さんのバカンス地で有るのだと実感しました。日本ですぐさま同様の対応が難しいのは承知していますが、世界対応のリゾート地はこの対応レベルであるという事はお伝えできればと思います。(すみません写真は牛です…)
◆クスクス(食材の伝播について)
クスクスは北アフリカとヨーロッパの関係を象徴する食材です。クスクスは、パスタの原料でもあるデュラム小麦を小さなそぼろ状にしたもので、世界最小のパスタとも呼ばれています。元々は北アフリカを代表する料理で、タジン料理にもよく使われます。おそらく、茹でなくてもタジンの無水料理でも乾燥状態から調理できた事が、この地の気候にあっていたのだと思います。
フランスがモロッコの宗主国だった歴史もあり、クスクスはフランスやイタリアに広がり、現在ではフランスの日常食に不可欠な存在になっています。パリ節約自炊生活でも度々付け合わせとしてクスクスを紹介している様に、フランスの日常食でなくてはなら無い存在になっています。
前述のハラールは宗教を前提にした食事概念ですが、クスクスを始めとした食材や調理法は、マラケシュの商業地としての性格を反映して各地に夫々の受け入れ方で広がっていったという事実が、多様な文化の交わり、吸収と拡散を繰り返してきたこの国の性格を表していて大変興味深いと感じました。(ちなみに写真手前中央がクスクスです…)
◆フライドポテト
最後に、モロッコ料理とは全く無いのですが、3食ブッフェのホテルに1週間滞在して気づいた事を書きたいと思います。
前述の通り、我々夫婦が宿泊したホテルはオールインクルーシブで3食ブッフェ形式で頂ける内容で、朝夕問わず、サラダ・メイン・デザートまで、モロッコ料理からイタリアンまで、常に40〜80種類の料理が並んでいました。写真下は初日のランチで私が選んだ料理で、サラダ・お肉・ご飯をバランスよく頂き大変満足でした。
ところが…周りを見渡すと、他のファミリーの皿の上はフライドポテト・ピザ・パスタ・肉・デザート…以上!という皿が散見されました。ランチだからかな、と思ったのも束の間、夕食でも朝食でも、どのファミリーを見ても皿いっぱいのフライドポテトの山々。子どもがフライドポテト山盛りなのは理解できますが、お父さんもお母さんもお婆ちゃんも山盛りのフライドポテト。40〜80種類の料理が並ぶブッフェで断トツ一番人気がフライドポテトというのは、かなり衝撃を受けました。
一週間、他のファミリーの食事風景を見ていて感じた事は、彼らはそれを何も悪い事だとは思っていなくて、私がそんな彼らの食事風景を見て“勝手に”ハラハラするのは、日本的食事教育に依るものだと言う事。子どもの頃から何度も酸っぱく言われてきた、「バランスよく食べなさい」とか「赤・緑・黄は等分に」とか、大人になっても何となくラーメン食べた後に申し訳なくなる気持ちとか、これらは全て日本の食事教育に起因する価値観であり、個人的には、給食が大きな要因なのかと感じました。
パリの子どもたちを見ても、給食がない事が多いので、お弁当は30㎝級のフランスパンにハムとチーズを挟んだものを食べた後、付け合せ?として(お母さんがもたせた)ポテトチップスをバリバリ食べているのを見ると、日本のお母さんのお弁当はもはやcuisine(正餐)だなと感じる事が多々ありました。
この旅を通じて、よくフランス人に言われる「和食は健康的だね」の意味は、寿司やテンプラやすき焼きに在るのではなく、給食や日常食を背景とした「バランスよく食べる」食文化教育に在ると気づきました。
栄養士さんの仕事はなかなか表に出づらいのですが、彼女たちの堅実な仕事を通じて染み込んだ価値観は日本人の価値観に影響を与え、食事の選択に影響し、結果として世界屈指の寿命に繋がっているのだと感じました。
◆食とは何か?
衣食住、この3要素はその国や土地の文化を象徴するものですが、特に“食”は生命維持に密着したものであると同時に、その地で採れるものやその地の歴史・文化的背景を色濃く反映したものであると思います。写真はマラケシュの市場で売られていたパンで、市場で働く地元の皆さん用です。小麦を発酵させて焼いたパン自体はアフリカにも伝統的にあった料理ではありますが、フランス宗主国時代に輸入されたパン文化も大きく影響していると思います。
“食”を見れば、その国の歴史や文化や宗教的な背景を垣間見る事ができると今回の旅を通じて実感するとともに、3番目のトピックスに書いたフライトポテト依存は、日本人的栄養教育を受けた私から見ると何とも驚異的で危惧すべき世界的な食文化の変遷だと感じるのでした。
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