働き方の手綱を握る
私がフリーランスとして独立したのは2019年の2月である。特に大きな信念があって始めたわけではなかった(経緯はこちら)が、すぐにこのスタイルがとても自分に合っていると気づいた。
その理由はまず何と言っても家で仕事ができること。前回も書いたとおり、体調が優れないときには休養を挟みながら働くことができる。加えて自分にとって最適な環境を整えられるのも大きい。冷房の効きすぎたオフィスで冷えをがまんする必要はないし、片頭痛発作のトリガーとなる騒音や光などの刺激も避けられる。生理中はトイレにも行きやすい。
家でなくても、どこでだって働ける。たとえば梅雨の時期は片頭痛が頻発するので、今年は海外に2週間ほど滞在する予定だ。居場所を誰にも管理されないのは、独立して働く醍醐味だろう。
それから、スケジュールや仕事量を自分で調整できるのも大きい。会社員の場合は(よほどの病気でない限り)一律の稼働率を見込んで業務を割り振られるが、片頭痛やPMSがあると実際には常に生産性を100%発揮できるわけではない。独立して以降は業務量をフル稼働の8割程度に抑えるようにしたおかげで、引き受けた仕事で成果を出しやすくなったし、心の余裕も生まれた。
あと、天敵の異動とも無縁になった。もちろん新たなクライアントとの付き合いが始まることあるが、それは自分の意思に基づいてのみであるうえ、かつてのように業務や職場の人間関係が丸ごと変わるわけではない。自分がキャリアの手綱を握れるようになったことで焦燥感を抱く頻度が減り、メンタルは以前よりも安定した。
私はこの、キャリアや働き方の手綱を握るという考え方はとても大事だと思っている。そもそも健康な人を前提とした環境で、私はなぜがんばろうとしていたのだろうとさえ思う。今から思えば、勝負する場所も方法も間違っていた。体調の変化に罪悪感や劣等感を抱きながら働いたところで、長く活躍できるはずがない。そんな仕事の仕方はサステナブルではないし、何よりも不幸だ。
体調に不安を抱える人が全員独立すればよいという話ではない。会社員でも、転職するなり会社に交渉するなりしてベストな環境を求めていくことはできるだろう。問題は、かつての私みたいに「1つの正解」に自分を当てはめようとすることだ。ほとんどの場合、それは健康な人にとっての正解である。ただでさえ通院や治療代でリソースやコストを取られているのに、そんな交渉までするんですかと思うかもしれない。けれど、これに限った話ではなく、この社会構造のなかで少数派の意見や現実を知ってもらうには、当事者たちが声を上げていくしかないのが実情だ。だから私は少し余裕のある今、こうしてnoteを書いている。キャリアストーリーから健康の話を排除すべきではなかったという反省をもとに。体調に問題がないふりをしなくてもいいというメッセージを込めて。
PMSや片頭痛対応への試行錯誤は続いている。
まずPMS対策では、30代の終わりにピルを止めてミレーナ(IUS、子宮内で黄体ホルモンを放出する器具)を入れた。ピルと違って決まった時間に服薬する必要がないうえ、経血量も大幅に減る。しばらくはまあまあ快適だったが、3年も経つと生理周期にあわせて突然多量に出血するようになった。婦人科で相談すると、「ミレーナの期限は5年と言われているが、実際には3年経つと効き目が切れる人が出てくる」という。その後PMSがどんどんひどくなり、試しに数か月前にミレーナを抜いた。するとPMSは少し改善したが、その代わりに経血量や生理痛が復活し、久々に毎月生理の不快感を味わっている。ただ在宅で仕事をしていることで、寒いオフィスで生理痛に耐えたり、経血が漏れて外出着を汚さないかヒヤヒヤしたり、ナプキンを持ち歩いたりしなくていい分、QOLは昔に比べて悪くない。
片頭痛には波があり、新しい薬を試している。毎日合計で6錠の薬のほか、発作時は鎮痛剤も飲む。そして月に1度は通院が必要だ。ここまでめんどくさいことをしているのに、それでも月のうちすっきりしない日は何度かある。特に生理前や低気圧が近づいてくると脳が膨張したような感じになって使い物にならない(今日もそんな感じだった)。そんなときのために仕事量を抑えてあるのだが、実際に休んでいる時間は未だにちょっと情けなくなるし、焦りを覚えることもある。でも経験を積んだ分、「少し休んでも大丈夫」と思えようにもなった。
私の人生はあと数年で更年期と呼ばれるフェーズに入る。これまで散々女性ホルモン系で苦労してきた経験から考えるに、そう気楽には乗り切れないと考えている(根拠はないが)。しかしいざそうなったときに、私は自分の体調不良を弱みだとかハンデだとか恥ずかしいとかそんな風に思いたくはない。だからこそ、私はこれからもちゃんと手綱を握り続けようと思う。そして、こうして発信することで、体調に不安のある人が望むキャリアを諦めなくてよい世界の実現に少しでも貢献できればと願っている。
(Image by Chema Photo from Unsplash)
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