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厚木の有孔鍔付ドッキー(土器クッキー)と博物館における対話型観察のその後

2月27日、あつぎ郷土博物館の開館5周年記念イベントのひとつで、講師に呼んでいただきました。

内容は、私の恒例ワークショップ、土器クッキーの「ドッキー」づくりです。

今回は土器片ではなくて
完形の土器をモデルにしました


1.厚木市林王子遺跡出土のふしぎ土器

モデルにしたのは、厚木市の林王子遺跡から出土した「有孔鍔付土器(ゆうこうつばつきどき)」(口の部分に穴と鍔のような突起がめぐっている土器)です。

モデルにした「有孔鍔付土器」
出典: https://www.city.atsugi.kanagawa.jp/soshiki/bunkazaihogoka/1/3/6201.html
土器についているヘンテコ生き物がかわいいので、
勝手に「林王子くん」と名づけました。
出典: https://www.city.atsugi.kanagawa.jp/soshiki/bunkazaihogoka/1/3/6201.html


この「有孔鍔付土器」、実はどのように使われたものなのか、研究者の間でも結論が出ていない

謎の土器

なのです。

今回のワークショップでは、クッキーを作るだけではなくて、この土器をみんなで観察しながら、謎の土器の真相に迫ることにしました。

2.モノをみんなで観察する

プログラムの流れはこんな感じ。

1. みんなで土器をおしゃべりしながら観察(対話型の観察)
2.土器をモチーフにしたクッキー作り
3.専門家(学芸員さん)が考える有孔鍔付土器の用途の解説

左は昭和30年代の洗濯機、
右は林王子遺跡の土器のレプリカ

最初の観察は、いきなり縄文時代の土器を見るのはレベルが高いので、まずは昔の民具(洗濯機)の観察をしました。

はじめの観察結果

これは、球体の容器の中に衣類と水をいれて、ハンドルをぐるぐる回転させる昔の洗濯機です。

参加者からは、手回しで回転させるためのハンドルがついていたり、蓋がついていることから、何か材料を中にいれて生地をこねる機械ではないかとか、ビー玉やおみくじが出てくるものじゃないかとか、いろいろな推測がありました。

ラスボス有孔鍔付土器


民具でモノを観察する眼を養ったあとに、いよいよ林王子くんの観察です。

問いかけとしては、民具の時とおなじく「何に使ったものだと思うか」をききました。

・たくさん入るしっかりした入れ物→鍋かな?
・まんなかの生き物は足がない。カエルのようで、人間ではない不思議な生き物だ
・不思議な生き物がつけられているから特別な容器ではないか
・神様へのお供物をいれたのでは?
・口に穴があいていて、穴のまわりが黒くなっている
・穴からなにか出てくるようにしたものじゃないか

などなど発言がありました。

ちなみに、土器は本物ではなく、精巧なレプリカで、色味もすすの様子も本物と変わりません。
レプリカなので、手にとったり中をのぞいたりして観察することができました。

3.林王子くんドッキー作り

有孔鍔付土器は「謎の」土器なので、答えはいったん保留としまして…観察が盛り上がったところでドッキー作りに移りました。

手前のイラストはわたしが描いたもの。

ちょうどバレンタイン前だったので、チョコレートたっぷりのクッキー生地を粘土に見立ててクッキーング🍪

参加者の多くは小学生

じっくり観察したこともあり、みなさん特徴がよく捉えられています。↓↓

かわいい林王子くん
なごやか顔
山梨県の土偶みたいな顔
かわいい。
大人の方の力作!


4.太鼓かお酒の醸造用容器か!?

全員のドッキーがオーブンに入ったところで、学芸員の佐藤さんに、専門家が考えている、有孔鍔付土器の用途についてお話してもらいました。

有孔鍔付土器は、研究結果では、口に革を張った「太鼓説」と、中に葡萄のような果物を入れて発酵させた「お酒を醸造するための容器」というふたつの説があり、まだどちらなのかの決着はついていません。

学芸員の佐藤健二さん

(午後の部だけですが、)佐藤さんの話にわたしがちょいちょいツッコミをいれて、「太鼓だとしたら土器は割れちゃわないんですか?」とか、「中に別のものが入っていた場合もあるのではないてますか?」とか、いじわるな質問を投げまくりました。佐藤さんを困らせてしまい、申し訳なかったです。。

5.対話型観察をする意図

しかし、「謎なモノ」というのは縄文時代の遺物の中にはけっこうあって、簡単に答えが出せないものがあるのも事実なのです。

もちろん研究の積み重ねによって明らかになったものもあるので、研究者を批判するつもりは毛頭ありません。有孔鍔付土器のふたつの説にも研究史があります。

でも、「わからないものは、わからないまま」、みんなであーだこーだ言うのも考古学の楽しみだよね!ってわたしは思うのです。

といっても、…なんでもかんでもアリということじゃなくて、議論の原点はやっぱり「観察」。

その土台の上で、「こういう風に観察できるから、こう考えられる」、というのを他の人と対話しながら何度も考えていくことがおもしろいんじゃないかなと、個人的には思っています。

そんなことを伝えたくて、ワークショップの中でこういった試みをやり始めたわけです。

展示室で縄文時代の「謎な」遺物を
探してまた観察してみよう!の回


「ラーニング」とか、「構成主義的な学び」とか、博物館の教育普及のあり方も変わりつつあります。

そんな中で、「モノの観察」を原点とする考古学だからこそできる領域が何かあるのではないかなと思うのです。

まだまだ不慣れで、プログラムの組み方など反省ももちろん後であるのですが…でも、考古学的な学びって、とってもおもしろいんですよ!ということが、少しでも伝わったらいいな、と思います。

それから、厚木のみなさん、かわいくて不思議なこの「林王子くん」を大事にしていきましょう!!
(←実はわたしも厚木市民)

厚木市のマスコットキャラクター
「あゆコロちゃん」
出典:博物館HPより


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