鷺沢萠のウェルカム・ホーム!を読んだ
気づけばnote初投稿から約1ヶ月が経とうとしている。怖い、時間の流れ早すぎ。
コンスタントに更新してる人すごいね…?書くネタも労力も無いんですけど…
さて、最近は鷺沢萠という作家が好きでよく読んでいます。
きっかけは男。SNSで知り合った、きのこ帝国やMARQUEE BEACH CLUBを好んで聴き、散歩が趣味だといういかにもサブカルチャーな男が、「鷺沢萠の書く文章が好きだ」と言うのでどんなもんなんだと読んでみたら、とても良かったのです。
なんと言うか、登場人物がいちいち愛おしい。言葉の端に一喜一憂し、会話も妙に生々しくて。表現がみずみずしく、描写の解像度が高い。甘い汁をたっぷり湛えた桃の表面を覆っている産毛のような細かい毛を撫でている感覚。え、どんな感覚ですか?
さて、タイトルにもある通り「ウェルカム・ホーム!」という本を読みました。
鷺沢の著書の中でも、1位2位を争う人気作品だそうだ。納得。
”フツー”ではない家族の話が2編収録されています。離婚し親にも勘当され、親友の父子家庭宅に居候しながら、家事と子育てに励む元シェフ渡辺毅と、再婚にも失敗し、愛情を注いで育てあげた前夫の連れ娘と引き離されたキャリアウーマン児島律子の話。15年以上も前に書かれた物語とは思えないほど、令和になった今でも響く言葉ばかりでした。
まずは渡辺毅の話からいこうかね。父2人、息子1人の変わった家族の話。
毅は元々シェフで、毅の父がオーナーシェフをしていたレストランを"テキトー"に継いだら、瞬く間に経営が立ち行かなくなってお店を潰してしまった。妻には離婚を言い渡され、離婚の際に家も持って行かれ、親には勘当される。妻、家、仕事、親、全てを失った毅は、時同じくして妻に病気で先立たれた大学時代からの親友、松本英弘の現状を知る。英弘は妻にも両親にも先立たれ、仕事は忙しいのに家事や一人息子の憲弘の面倒を見なければならず、こちらはこちらで立ち行かなくなっていた。家や経済力はあるが家事・育児はしていられない英弘と、家や経済力はないが家事はそこそこ出来る毅が一緒に住む、と言う決断に至るのはとても合理的だった。そうして父2人、息子1人の変わった家族の出来上がり、という訳です。
最初に断りを入れておきたいのですが、決してゲイカップルの話ではありませんからね。互いに婚姻歴もあるし、妻と離別した者同士で一緒に暮らし始めてからも、彼女を作ったりしているし。恋愛対象は女性なのだ。本人も「ホモだと思われたくない」と言っているし、あらすじを読んで「BLなの!?」と食いつく腐女子は回れ右して頂きたい。男同士のラブは書いていない、だがそこが良いんだよ、分かるかね。
物語は憲弘の作文に始まり、作文で終わる。よくある「僕の家族」というタイトルの作文だ。憲弘くんは素直に父が2人いる事を書き連ねており、それがハプニングにより現在主夫の毅の目に触れる。「これやべえだろ……!」と思った毅は仕事でクタクタの英弘に報告するが、英弘の方は「なにがやべえの?」と無頓着。「だって、これじゃ俺たちがホモだって誤解されるし…お前ら一応父子家庭って事になってんだろ!?」「俺は別にホモと思われようが気にしないし、ちゃんとした父子家庭じゃないか、何か問題でも?」「いや、そうなんだけどそうじゃないじゃん…」毅はモヤモヤを抱えたまま床に就くが、結局よくは眠れない。あれ…?これ概要書いてたら余裕で文字数稼げちゃうな、ここらへんまでにしておくか。
男の沽券なんてつまらんもんに執着して、語気が強まってしまったり、自己嫌悪に陥ったり、泣いてしまったり。男の人もそれはそれで大変そうね。少しだけ同情しちゃう。
別に女だから家事して育児してって家を守る必要ないし、男だから外で働いて働いて家族食わせるのが正義じゃないし。出来る人が出来る事を出来る限りでやるって、1番合理的だしお互いのストレスも最小限になりそうですよね。もっとこの考えが広まれば良いのに。
普通、ふつう、フツー。何が普通なのかもうよくわかんないっすよね!人生。彼らはこの生活が普通だけど、はたから見たら彼らは絶対に普通ではない。もっと生き方の多様性認められても良いのになー!!まだまだ世知辛いぜ世の中!!
正直、どの人物にも似たような経験が無いので感情移入は出来なかったのだが、みんな自分に余裕がある時には人にも優しく出来るような人間味溢れた奴らでもう愛おしいったらありゃしない。これから家族の構成や人数が変わるかもしれないが彼ら彼女らには末永く幸せにやってて欲しい。
続いて児島律子の話。響いたわー。
バリキャリの律子の元に、ある日面識の無い青年が訪ねて来る。その青年は、かつて律子が2度目に結婚し離婚した、石井という男の連れ子である聖奈の婚約者だった…という話。
21歳の時、懇ろだった男との妊娠と流産を経験した律子は「この先、私子供産めないかも…」と直感するんです。それで、その男と結婚しても、当時はまだ珍しかった"結婚しても家庭に入らず外で働く"という選択をするんですね。案の定、夫は外に女を作り、律子は会社から能力を買われアメリカに留学に行かせてもらえる事になった。決定的だった。なんだかんだ言って、この男も「家にいて自分を待っていてくれる女」が欲しかったのか…
律子は母からもこんな事を言われます。「あたしらの頃だったら、考えられない事だよ…」うわー、キツい。
その後何やかんやあって33歳になった律子は再び結婚します。相手の男、石井も再婚であり、まだ幼く天使のような聖奈を連れて来ました。石井は肩書きだけは経営者ですが、実際は親の事業を継いだだけのポンコツで、せっかく両親が築いてきた財産も全てぱあにし、挙句律子にも金をせびってきます。そのうえ、外に女を作り家事育児は手伝わない。一緒に住んでいる石井の両親(律子からみて義父母)も「家事育児は嫁(律子)の仕事でしょう」という古いタイプの人間。律子は働きながらほぼ女手一つで聖奈を育てます。夫の分まで愛情たっぷり込めて。
舅が亡くなった時に完全に石井家とダメになった律子は離婚を決意しますが、聖奈をここまで育てたのは私、と聖奈が付いて来る事を疑いません。しかし聖奈は思春期真っ盛り、思いもよらぬ言葉を口にします。「飯倉片町(今の住まい)ってのが結構バリューな訳。今さら練馬(律子の実家)になんて行けないわよ」あんなに手塩に掛けて育てた聖奈が異世界語を話している…そうして律子は泣く泣く聖奈を石井家に置いて練馬に戻り、粛々と仕事のキャリアを積んでいた。そうして4年が経った今、聖奈の婚約者だと名乗る青年が訪ねて来たのです。あー長い、ほぼほぼ話しちゃったわ、これ。
割と序盤で呪いをかけられちゃうんですよね。しかも実母に。「あたしらの頃だったら、考えられない事だよ…」って。まあ律子はそれでも負けずに外でバリバリ働くのですが、やっぱり家で何かあった時に攻められて、「私が外で働いでるから…」って自責の念にも駆られるし、マジで良くない。律子は悪くないのに。こんなに働いて、なんなら夫よりも稼いでるし、聖奈も1人で育てたのに、なかなか上手くはいかないもので。むっず、生きるのハードモード。
でも聖奈ちゃんの気持ちも分かるんですよ。中高生なんてあらゆる物が自分のステータスになるじゃないですか。住んでる場所や、恋人のスペック、使っている財布のブランド、エトセトラ。クラスのヒエラルキーが可視化されて、マウントの取り合いになるでしょう。学校生活に於いて、より良いポジションを確保することが結構重要だったりしますよね。死活問題というか。私はずーーっとヒエラルキーの最下層で、なんならいじめられていた事もあるので、ね。あの頃って学校生活が全てだから、ポジション確保に心血注ぎますよね。私はド田舎の出身なので住んでる場所云々ってのは無かったけど、東京の人で、港区在住って肩書きは相当な武器になるんだろうなってのは分かる。分かるよ。
聖奈ちゃんはね、律子が家を出る時に「お母さんが居なくなったら、これから私の制服のカラー(襟)は誰が洗ってくれるわけェ?」とかほざくんですよ。練馬には行けないくせに。でも実はこれが聖奈なりの精一杯の引き止めの言葉で。もう不器用すぎて抱きしめたい。めちゃめちゃ愛おしいですよね。「行かないで、お母さん」を精一杯ひねくれさすと、「私の制服のカラーは誰が洗うわけェ?」になるんですよ、ここテストに出ますからね。
血の繋がりがなくても、一緒に住んでいる人間の事を思いやって生活できればそれはもう家族だし、逆に血が繋がっていても相手を思いやれないなら家族とは言えないかもしれない。家族って繊細で、難しいね。
私は、家族が欲しい。
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