【映画レビュー】プリデスティネーション
えーすごーい!こんな映画あるんだすごーい!と、ちゃんと楽しむためにはある程度の知性を要する映画なのに、ちゃんと楽しめると興奮して語彙がアホになってしまう作品。こういう複雑な映画がちゃんと成功するってめちゃくちゃすごい事だと思う。
正直、誰にでもおすすめ!という大衆向けの作品ではない。どういうタイプの人がこの映画にハマるのかもよくわからない。ちゃんと全てを理解するには知性が必要だけど、謎解き探偵モノみたいな全編に渡って頭を使う楽しさを刺激するようなタイプのものでもない。そういう前のめりに自分の知性を試そうという姿勢で見る映画ではなく、普通の映画として楽しんで全体像がちょっと複雑だったな上手く出来てるなという楽しさがある映画だ。
映画の魅力を損なわないようにネタバレを回避しながら内容を説明するのも難しい。ジャンルの説明すら、迷ってしまう。秘密裏に犯罪を回避する組織のエージェントを描くスパイものっぽい雰囲気はあるけど、犯罪組織との戦いを期待して見るとガッカリするだろう。その手の映画にしては酒場でバーテンダーが客に数奇な人生を語られるボリュームが大きすぎる。
この酒場のパートがすごく長くて、あれ?これ何の映画だっけ?どこに向かってるんだっけ?みたいな気持ちに一瞬なるのだけど、でもその酒場の話もめちゃくちゃ面白い。それにちゃんと必要なパートだ。これがこう繋がっていくのかぁ!みたいな、伏線の引き方がめちゃくちゃ上手い。それに、全てがわかって振り返ってみると、かなり大胆にヒントを出しているのにわからないもんだなぁと感心する部分もある。そういうロジックのすごい映画って、複雑なロジックの説明に終始してドヤっている感じがしてしまってあまり好みじゃない事も多いんだけど、人間の複雑さや葛藤を描きながら実はロジックが面白かったみたいな、押し付けがましくないところがめちゃくちゃ気に入った。
原作がロバート・A・ハインラインと知って、名前だけは知っていたけどハインラインってすごいんだなぁと思った。読んでみたいと思いながらも後回しにしていたハインライン作品に、俄然興味が湧いた。
もちろん原作が良いだけではなく、映画としてミスがないというか完璧な作りだと思うし、こういう大衆受けしなさそうな映画を作り上げるためには賢くて情熱のある人がたくさんいたんだろうなぁみたいな感慨も覚える作品であった。
『プリデスティネーション』 4.0