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【小説レビュー】『ジーキル博士とハイド氏』スティーヴンスン

あまりにも有名な「ジキルとハイド」の元ネタである小説を、たまたま目にして読んでみようと思った。本書の解説の冒頭にも「あまりにも有名すぎて、かえって読まれることの少ない名作」と書かれているがまさにその通りである。さすがの知名度を誇る名作なだけはあると思わせる、大変面白い小説だった。

「ジキルとハイド」という言葉が何を指すのかうっすらと知っている状態というのは、ネタバレされた状態でこの本を読む事を意味する。正直、「ジキルとハイド」って言葉は聞いた事があるけどどういう意味だっけ?という人は何も調べずそのまま本書をぜひ読んで欲しい。ネタバレなしで純粋にこの小説を楽しめるのは、大変幸運な事である。

本書は弁護士のアタスン氏視点で話が進む。高名な弁護士であるアタスンは、同じく高名な医者であるジーキル博士(本書ではジキルではなくジーキルと表記されている)の友人である。ジーキル氏が近頃、大変評判の悪いハイドという男と付き合いがある事がわかり、ジーキル博士を案じてアタスンが問いただしてみるが、ジーキル博士はハイドについて詳しい事を語ろうとしない。そんなハイドの正体を追う物語である。
さすがの名作、本当に純粋にストーリーが面白い。どんどん物語に惹き込まれていって、続きが気になってページをめくる興奮を味わえる。キャラクターも、突飛なところはないけど(ないとも言い切れないが)、昔の英国紳士の思想が現れている人柄が興味深い。真面目で理性的で仲間思いで、いざという時に頼りになる感じが当時の価値観を思わせる。こういう古い本に描かれているキャラクターって、当時の生活様式や使っている道具などと同じくらい現代との変化を感じられて面白い。

光文社の古典新訳文庫で読んだのだが、難しくて読めない程に古典的な文体ではなく、しかしちょっと古めかしい表現もあって古典を読んでいるという満足感も得られるちょうど良い感じが好きだ。最近の本のようにスラスラとは読めないけどそこそこ読みやすく、分量もわりと少なめなので気軽に読了でき、何より小説としてちゃんと面白いのでぜひ「ジキルとハイド」の原典を読んでみる事をおすすめしたい。

『ジーキル博士とハイド氏』 3.5

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