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【映画レビュー】ノクターナル・アニマルズ

冒頭のテロップであっこれトム・フォード作品なんだ!と気づいたので、最初から良い映画なのだろうというバイアスが掛かった状態で見てしまった(なんせ『シングルマン』はとても素晴らしい作品だったので)。だからこれはフラットな評価ではないのかもしれないけど、めちゃくちゃ面白い映画だった。トム・フォードまじ天才。

割とエグみのある映画だ。冒頭のインパクトあるシーンに嫌悪を覚える人は、その時点で引き返した方がいいと思う。
裕福な成功者である画商の女性の元に、20年前に別れた夫から小説が届く。その小説を読む事で、過去を思い出しながら自分を省みる話だ。
彼女の現在の暮らし、小説に描かれているストーリー、彼女の過去、この3つの時間軸を行ったり来たりするのだけど、一番最初に小説の世界が始まった時以外はこの時間軸の移動がめちゃくちゃ理解しやすくて、正直これだけでもめちゃくちゃすごいと思う。3つの時間軸のどこにいるのかがわかりやすく、移動のタイミングも上手くて、適切なタイミングで適切な情報が与えられていて、この技術を持っているだけでも映画監督として非凡だと思う。

この映画の物語のメインは成功者としての彼女の暮らしぶりではなく、小説の中の話だ。この劇中劇が、いやぁーな感じでよくできている。嫌悪とか絶望とか後悔とか、そういう色んな負の感情が詰まっている。この劇中劇だけで映画を作られたらネガティブすぎて見ていられないかもしれないが、そういう息苦しさから絶妙のタイミングで現実の成功者である生活に戻ってくる。その生活も裕福ではあるものの決して楽しい生活ではないのだけれど、でもこの息継ぎは救いである。
それに、劇中劇の割合が多いと、本編にも劇中劇にも時間を割けずにどちらも中途半端になってしまうリスクがあるが、どちらも面白い。本編の成功した画商としての生活ぶりやその過去も、彼女は聡明で善良であろうとしているのに失敗もそれなりに重ねてきたんだなぁという一人の人間の人生をきちんと描いてある。劇中劇の中の元夫を投影したキャラクターも、彼の感じた無力感とか恐怖とかを理解できるし、彼が後悔を爆発させる場面はめちゃくちゃ泣ける。
全く異なる2つの話をそれぞれちゃんと魅力的なストーリーとして描いてあり、相互に補い合っているのが本当に上手い。

この映画が、ラストばかりを取り上げてその意味を考察されるのが不思議だ。個人的には、ラストはちょっと拍子抜けというか、ここで終わるんだ、という感じだった。でも、別に何でもいいというか、ラストはおまけみたいなものという感覚だ。それより前にこの映画から必要なものは全て受け取っているというか、だからもうだたの余韻なんだから何でもいいじゃんと思っている。
まあ、監督はラストにめちゃくちゃ重要な意味を込めていてこのラストあってこそのこの映画なんだ!みたいな気分なのかもしれないけども。

『ノクターナル・アニマルズ』 4.0

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