【映画レビュー】ザ・メニュー
こういうタイプの映画は個人的にあまり好まない傾向にあるのだけど、シュールで狂った世界観を最後まで維持しているのはすごいと思う。好き!って感じでもないけど、でも何かすごいと言うか上手いと言うか、良い映画だと思う。
孤島にある有名シェフの営むレストランに集まった人々が、ディナーをする物語。だけど決してグルメ映画ではない。
映画を見始めてわりとすぐ、その空気を感じられる。なんだか不穏で、何か起こりそうだなという空気だ。その空気がどんどん充満していって、どこではじけるのだろうという期待でまず引き込まれる。
高級ディナーをするために集まったお金持ちの面々が船で島に渡り、レストランの周りの島の様子を見て回り、そしてディナーが始まる。推理小説の定番みたいな、いかにもこれから何かが起こりそうだという空気感だ。ただ、そういう推理小説的な世界観とはちがう、不気味さもひしひしと感じる。特に舞台となるレストランは、統率の取れたたくさんのシェフや給仕が働いており、かつてスペインにあった伝説のレストランであるエル・ブジを思わせるような独特の世界観だ。このカルトの様なレストランが、不穏さを掻き立てる。
そうやって導入に成功してもいざ事が起こるとガッカリしてしまう事も多いが、この作品はちゃんとヤバい。どんどんエスカレートしていく。何を考えているのかわからないヤバい料理長、彼に忠誠を誓う統率の取れたシェフや給仕たち、逃げ場のない孤島で客たちは翻弄される。えっオマエがヤバイ奴だったの?!という驚きがあったり、極限状態で生まれる奇妙な連帯感を見たり、ただシュールで訳がわからないだけではない変化もある。
この手の狂気を描いた作品では、その恐怖を煽るようなコメディが用いられる事があるが、そのやり方も上手い。一見笑ってしまうようなシチュエーションだけど、笑っている場合ではない極限状態に置かれているため、かえって得体が知れなくて恐怖が増してしまうようなコメディの用いられ方である。
なぜこんな狂気が起こったのか、理由をあまり描きすぎていないのも良い。知りすぎると怖さが薄れる。よくわからない方が恐ろしく感じるものだ。ただ、理由を完全に放棄している訳ではなく、奪う者への制裁という主張がちゃんとあって、ちゃんとあるけどあまり描かないのが良い。
そして、狂人が最後まで狂人を貫き通したのが良かった。ちょっと人の心を見せる場面がありつつも、初志貫徹したというのがこれまた上手いと思わされた。
『ザ・メニュー』 3.0