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【小説まとめ】私の人生の三冊 - 『風裂』『抱擁、あるいはライスには塩を』『プロジェクト・ヘイルメアリー』

私には今まで出会った中で特別な小説が三冊ある。他の事(例えば映画とか曲とか食べ物とか)で三大を今すぐ挙げることはできないけど、小説に関してだけは明確にある。「本」という括りではなく「小説」のみの三大だ。小説と実用書は別物なので比較できない。


『風裂 神尾シリーズ5』北方謙三

出会った順に書く。当時はたしか20歳前後だった。
北方謙三『風裂 神尾シリーズ5』は神尾シリーズ全6巻のうちの5巻だ。それに気付かず本屋で最初の数ページだけ読んで「なんだこの面白い本は!」という衝撃で買って帰った。読んでいるうちに、あれ?と思ってよくよく表紙を見て5巻と知り、でもあまりに面白すぎてそのまま最後まで読んだ。私と北方謙三との出会いであり、ハードボイルド小説との出会いであった。
すぐに神尾シリーズの1~4も買って読み、さらにその後発売された最終巻も本屋で見つけた瞬間に買ってすぐ読んだ。さらにさらに他の北方作品も、とにかく自分が持っていない本を見つけたら買うという方式で読み漁り、小説は北方作品しか読まないという時期が何年も続いた程だった。
当時の私は、ほとんどの小説は不要な描写を長々と書き連ねてまどろっこしいという極端な思考だった(誓って言うが、今は違う)。なので簡潔でスピーディーでカッコ良くて最高に面白いストーリーの北方作品はあまりに自分の求めるものすぎた。北方作品はたくさん読んだけど、それでも神尾シリーズが一番好きだし、さらにその中でも『風裂 神尾シリーズ5』が一番好きだ。そりゃ強烈な出会いだった訳だな、と思う。ただ、他人に勧めるなら1巻から順に読んだ方がいいよとは言う。
尚、最近の北方先生はハードボイルド作家というより歴史作家としてのご活躍が目立つ。北方ハードボイルド好きとしては、新作ハードボイルドも待ち望んでいる。

『抱擁、あるいはライスには塩を』江國香織

北方作品や他の小説も読みはするものの、その頃の読書は実用書メインだった。福田和也『悪の対話術』という面白い新書を読んで、その流れで同じ著者の『悪の読書術』という新書も読んでみた。『悪の読書術』の方はちょっと難しくて読了できなかったのだけど、その中で「江國香織は天才である」と書かれていたのが妙に気になって、図書館に行ってみた。
初めて読んだ江國作品は『すいかの匂い』だった。本当に、数行読んだだけで「あっ天才じゃん!」って思った(生意気な!)。ストーリーではなく、並んでいる言葉に瞬間的に天才性を感じ取った。『すいかの匂い』はちょっとホラーテイストで、読み進めるとストーリーにも恐ろしい凄みを感じた。江國作品との出会いも衝撃的だった。
しかし北方作品に出会った時のように、江國作品を買い漁りはせず、思い付いた時に手を出してみる小説という付き合い方だった。彼女の紡ぐ言葉があまりに天才で、たまに触れさせていただく神の言葉という距離感がちょうどいいのだと思う。ただ、江國香織の天才性については江國作品を読んだ事がある人に出会うと必ず聞いてみるのだけど、彼女が他の作家とは明らかに異なる特別な文章を書くという共感を得た事が一度もない。なので日本語を使う全ての人が等しく感じる天才性ではないらしい事は述べておく。
『抱擁、あるいはライスには塩を』を読んだのは、江國作品との出会いから数年後だった。私が読んだ何作目の江國作品だったかも覚えていない。27~28歳だったと思う。当時の私の不安に寄り添ってくれるような、自分のために書かれたと思うような作品だった。私が共感している登場人物が送った人生と私が送った人生は全く違うけど、同じ事に悩み同じ事に喜び同じ物を大切にしていると感じ、そして勇気付けられた。その後も何冊か江國作品を読んでいて好きな作品も多いけど、私の一冊が『抱擁、あるいはライスには塩を』なのはこの先も不動だと思う。小説の神が書き賜う私のためのバイブルという位置付けだ。

『プロジェクト・ヘイルメアリー 上・下』アンディ・ウィアー

上記二冊が長らく私の特別な作品だったけど、特別な一冊をもう一つ探していた節があった。だって、私の人生の二冊!というのは何となく据わりが悪い。やっぱり三大!とか四大!ぐらいがちょうどいい。
この本は岡田斗司夫氏のおすすめSF本のうちの一冊で、興味を持った。海外作家の小説はほんの数冊しか読んだ事がなかったし、SFは映画で触れることはあっても小説というと小学生の頃に星新一を何冊か読んだ以来というほど触れてこなかったジャンルだった。自分の読書の幅を広げようと、2022年5月に読んでみた。私は39歳になった。
この本は、とにかくエンタメとして本当に面白い。ハリウッド映画みたいな壮大なスケールと起伏に富んだ驚きに満ちたストーリーで、エンターテイメントの王道!という作品だ。その上でSFの論理性の高さが知性をくすぐる。正直、この作品が理系じゃない人にとってどれくらい面白いのかわからなくて、他人に手放しで面白いよ!と薦めづらい。理系的というか、論理や科学の側面からのアプローチで問題解決する面白さがどれくらいの人が楽しめるものなのかわからないのだ。この理系心をくすぐる感じとエンタメ性の高さが自分の趣味にドンピシャで、本当に久しぶりに夢中になってページをめくったり、まだ読みたい!でも眠たい!と思いながら仕方なく寝たりする体験をした。
この本、映画化が進んでいるので読後から公開を心待にしている。宇宙を舞台に困難に立ち向かう友情物語なので、映画向きな作品だ。

まとめ

人生の三冊、といいながら全6巻のシリーズ物の中の一冊や上下巻物を含んでいてたいへん申し訳ないなと思いました。
このまとめを書いて初めて気付いたのだけど、どうも私は十年サイクルくらいで人生の一冊に出会っているようなので、次の一冊にはまた7〜8年後に出会えそうで楽しみだ。

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