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【映画レビュー】ザ・ビーチ

何が、というと上手く説明できないのだけど、妙に惹かれるものがある。王道の名作!みたいなタイプの作品ではないけど、映画にはこういうバリエーションがあってほしいんだよなぁという価値を感じる。

『タイタニック』のブームでレオナルド・ディカプリオが社会現象のような人気を獲得した頃にちょうど思春期だった私は、この映画が公開された頃のことも一応記憶にある。『タイタニック』でついたイケメンの印象を払拭しようと、役者として一皮むけようと慎重に選んだ次回作という印象だ。しかし個人的には『タイタニック』も本作も見る事なく時間が経ってしまった。それ以外のディカプリオ作品は色々見ているけど、『ギルバート・グレイプ』を除いて年齢を重ねてからの作品ばかりだ。だからレオ様の絶頂期のイケメン姿を堪能したのは、これが初めてかもしれない。
ただ、本作のディカプリオは確かに絶世の美青年ではあるけど、そのイケメンっぷりを楽しむような作りではない。当時の記憶がそう思わせるのか、『タイタニック』からの脱却を強く感じる、本格派の俳優である事を証明するような作品だ。そういう強引な路線変更は得てして上手くいかないもので、当時の印象としては本作の評価もいまひとつだった気がするけど、見てみると意外と面白い。

タイに自分探しをしに来たようなアメリカ人の若者が、怪しい男に幻のビーチの話を聞いてその楽園を目指す話だ。そう言うとファンタジックな印象になってしまうけど、ちょっとグロいくらいにリアルな現実のみで描かれている。
自分が生きてきた世界とは違う刺激を求めて、欧米の若いバックパッカーがバンコクに行く気持ちが理解できる。そういう魅力的でヤバい場所という空気感が、上手く描かれている。そういう非日常の中でなら、ヤバくてラリった男に聞いた都市伝説みたいな場所を目指してみたくなるのだろう。

そういう浮かれた若者を、おいおい大丈夫か?という気持ちで見ていると、案の定ヤバい事になる。ただこの映画、こうなるだろうと予想した事が起こるのだけど、それに全くガッカリしない。むしろそうなる事を予測しておかないと楽しめないだろうな、と思わせるような作りだ。
例えば、ディカプリオ演じる主人公とその仲間は、目指していた楽園に辿り着く。そこには同じく楽園を目指した旅行者たちが、自給自足の生活をするコミュニティがある。そのコミュニティには、そこはかとない怪しさがある。極端な思想や宗教などから世間を嫌い、独自のルールのもと自然に近い生活をする、一見自由に見えて歪んだ価値観でがんじがらめな、いつか崩壊する事を歴史が証明している小さなコミュニティ。ひと目見てそういう雰囲気を察して不穏なものを感じているから、その後コミュニティが突然壊れても唐突さを感じることなく理解できる。でも、それを全く予想できていなかった、ただ楽しい集まりだと思っていた人はきっと、何で突然こんな事になったんだ?と意味がわからなくなるだろうなと思う。
そういう、ヤバいぞヤバいぞという空気を感じさせる場面がたくさんあって、恐れていた事がちゃんと起こる。でも、予想通りでつまらないとかではなく、ちゃんと人間の醜さや集団心理の恐ろしさ、狂っていく様子などを描いていて魅力的なシーンになっている。

醜いのは主役のディカプリオも例外ではなく、だから身勝手でだらしなくてどんどん意味のわからない人間になっていくディカプリオは劇中では全くイケメンではない。だから公開当時、カッコいいレオ様を見たかった世間がこの作品にガッカリしたのだろう。特殊な環境で狂っていくディカプリオは、間違いなく素晴らしい役者だと思わせる演技力なのだけど。

風刺、というほど明確に何かを否定している訳でもないのだけど、何となく現代社会なり人間の醜さなりへの批判を感じられて、でも強烈すぎない感じが好きだ。
それとこんな醜い事が、こんなに美しい自然の中で起こっているというギャップも良かった。

『ザ・ビーチ』 3.0

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