見出し画像

【映画レビュー】ゾディアック

実在のゾディアック事件をもとにした映画。大変有名な劇場型犯罪で、当時のセンセーショナルさなども含めて過激なイメージがあったが、この映画はどちらかと言うと地味で平坦な印象だ。

というのも、この映画はゾディアック事件の犯人を直接追う訳ではなく、事件の周辺にいる人物を追う物語だからだ。しかも、新聞記者や刑事なども主要な登場人物であるが、主人公は事件を追う新聞記者の同僚の漫画家(フリーではなく、新聞社のお抱えの漫画家のようだ)である。彼は事件に深い関心を寄せるが、彼自身は直接事件を担当している訳ではない、一般人よりは少し情報が入りやすい程度の立場である。この主人公と事件の距離が少し離れている感じが、序盤はちょっと事件に入っていけない感じがしてしまう。

序盤の過激な事件が起こり犯人が活発に動いている頃に事件から距離がある描き方をしてしまい、その後に主人公が事件の事を調べ始めて距離が近付いた頃にはすっかり世間から事件が忘れ去られ熱が冷めた状態で、なので全体的に盛り上がりに欠ける印象だ。劇中でかなり長い時間軸を描いているのも、一つ一つのシーンはそこまで深く掘り下げず淡白な印象を受ける。一応、緊迫感のある盛り上がりもあるにはあるけど、それが事件解決に大きく貢献していないのもガッカリしてしまう。
この主人公も、終盤になって徐々に焦点が当たってきて彼が主人公だったなと思っただけで、見ている途中では誰が主人公かわからない。それくらい色んな要素を詰め込んでいて、その詰め込みすぎが盛り沢山な内容になるのではなく、何を描きたいのかがぼんやりしている感じになっているのも残念だ。しかも2時間半ほどの長めの映画であるにも関わらず、詰め込みすぎでぼんやりしてしまっているので、ちょっと退屈に感じてしまう。

事実をもとにした映画は、事実に基づいて作らなければいけないという縛りがあって、どうしてもドラマチックさに欠ける作品になりがちだ。しかし、あれだけセンセーショナルな事件がここまで平坦に描かれるのは(もちろん意図して平坦に描いたのだろうが)どうしても物足りない印象を受けてしまう。映像の作りとかセリフとか俳優陣とか、そういう映画の構成要素みたいなものの質の高さは感じる。それだけにもう少し欲張らずにテーマを絞って、正面から事件を描くのではなくゾディアック事件から少し距離のある人間ドラマに振り切ってしまうなどの思い切りがあれば良かったかなと思った。

『ゾディアック』 2.5

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集