【映画レビュー】BAD LANDS バッド・ランズ
こういう映画は評価されやすいし、好きじゃないと言うとわかってないヤツみたいな扱いをされてしまうんだけど、ちゃんとわかった上で個人的にはあんまり好きじゃない。
安藤サクラ演じる、オレオレ詐欺グループの一員が主人公だ。波乱万丈の人生を歩み、生きていくために法を犯す事に罪悪感も覚えない人間だが、弱者にかける情はあり頭もキレるし胆力もある、魅力的な女性だ。ヤクザや半グレや社会的弱者など、とんでもない奴らばかりの世界で、色んなトラブルに情けをかけ尻拭いをしている間に大きな事件に巻き込まれていく。
正直、安藤サクラが関西人だったらもっとこの映画に入り込めただろうなと思ってしまった。安藤サクラが素晴らしい俳優である事は疑いようもないし、主人公を演じるにふさわしいキャラクターでもあるが、どうしても大阪弁の違和感は拭えなかった。関西弁をわりとよく聞くという程度の私に違和感があるのだから、関西人たちはもっと違和感があるだろう。
これだけコテコテの大阪弁で会話劇をするのだから、せめて主要キャストは関西人で揃えるとか、長く関西を離れていたせいで標準語が抜けない設定にするとか、もうちょっとやりようがあったと思ってしまった。他の関西人であろうキャストたちですら、ここまでオラオラでコテコテの大阪弁は話し慣れていないんだろうという違和感があった程だった。
ただ、そう思いながらしばらく見ていてやっと登場した山田涼介の大阪弁が思いのほかナチュラルだった事には本当に驚いた。器用なのか、耳が良いのか、全体を通して違和感がかなり少なく感心した。
このとにかくベラベラしゃべる会話の多さを含めて、全体的に情報量が多すぎる事が気になった。べつに理解できるし、理解しにくい場面があっても見ているうちに理解できていくのだけど、理解できればいいってもんじゃない。やっぱり適切な情報量ってあって、たくさん知識があったりメッセージや主張があっても、伝えられる事って限られている。その受け取り手が快適に情報を受け取れる範囲を超えて、理解できるギリギリまで情報を詰め込んでいるような印象を受けた。
会話劇だって、面白くない訳じゃない。犯罪に手を染める人間がそうならざるを得ない、今まで知らなかった視点も見える。訴えたい事だって、わりと真っ当だ。知識も知性も感じる。でも、そういう色んな事を全部伝えようとしすぎで、結局大事なことは何だったの?みたいになってしまう。余白とか、緩急とかの大切さを感じてしまう。2時間20分を超える長さになってしまっているのも、伝えたい情報を絞らなかったせいだろう。
まあでも、別に熱意が溢れて上手くいかなかったとかではなく、作り手が少ない情報から汲み取れるヤツだけ付いてくればいいと思って作っているんだろうなとは思う。
冒頭、「何歳の時の何歳や?」で話が通じる主人公を褒めるシーンが象徴だろう。そういう一を聞いて十を知る人間に届けばいい、わかるヤツにはわかるだろ?というスタンスなのだろう。劇中のちょっとした冗談にも、わかるヤツだけ笑えるネタが散見される。
まぁちょっと傲慢だとは思うけど、そういう映画もあっていいとも思う。
オレオレ詐欺の仕組み、社会的弱者たちのコミュニティ、複雑な裏社会、バカな半グレ、警察の捜査、ヤバい金持ち、姉弟の情、全てをリアルに描き、複雑に絡め、伏線を回収し、矛盾なく描き切っている。めちゃくちゃ才能のある人間が作った映画だと思う。
でも、映画ってエンタメで、楽しい!面白い!すごい!みたいな心が動く余白がないといけないんだなぁと思った。
『BAD LANDS バッド・ランズ』 3.0