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【小説レビュー】『年下のセンセイ』中村航


この人の書く人物が好きだ。尖った個性はないけど、それがいい。適度に面白く、適度に意志があって、その辺にいそうなリアルさがあるのに、ものすごく魅力的だ。男性も、女性も、主人公も、その周りの人たちも。

予備校で働く会社員の女性と、その女性が通うお花の教室で助手をしている若いセンセイの恋愛を描いた物語だ。恋愛を描いた、と言うと彼らが恋愛するネタバレになってしまうけれど、まぁそれくらいは許してほしい。私は中村航作品を読むのは3冊めだけど、全部恋愛小説だ。この人はこういうどこにでもありそうで特別美しくて面白い恋愛小説を書くプロなのだろう。たぶん。

私はこの作者と笑いのツボが合うというか、めちゃくちゃ面白いところが好きだ。登場人物たちの会話には何度も声を出して笑うし、考え方が面白いなとか、言葉選びが良いなと思わされる。そういう人いるよなぁって共感できる行動とか、こんな人が身近にいたら楽しいだろうなぁと思うような登場人物の行動が、読んでいて本当に楽しい。

人物造形の素晴らしさだけでなく、ちょっとずつ情報が入ってくるペースみたいなものに書き手の上手さを感じる。誰が何をしているのか全くわからない状況から、今何をしているとか登場人物がどういう関係であるとかその登場人物の新たな情報が加わるタイミングとか、そういうわかりやすさがめちゃくちゃ上手いと思わせる。江國香織さんにも感じる事なのだけど、何かものすごく劇的な事が起こっているとかではないのに、ありふれたものを描写しているその文章がめちゃくちゃ魅力的なのだ。

それと何か、知識を得たりする。へぇ〜って思うだけで、役に立ちはしないのだけど。そういうところが、友だちと話している時に自分の知らない事を知ったり、その友だちの考え方が垣間見えたりするような楽しさを覚える。

読みやすいし、面白いし、誰かに見せにくい特殊なところもないし、あまり小説を読まない初心者とかにもすすめられると思う。それによく小説を読む人でも楽しめる、魅力的な文章だと思う。

『年下のセンセイ』中村航 3.5

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