【小説レビュー】『武器よさらば(上)』ヘミングウェイ
ヘミングウェイの代表作が『老人と海』である事は私も理解している。大作家の著作を読むならまずは代表作から手を出してみたいと思っているが、期せずして『武器よさらば(上)』が私のヘミングウェイとの出会いの作品となった。特にこだわりがあった訳ではなく、単に書棚に『老人と海』はなかったが『武器よさらば』はあっただけなのだが。
古い本は、現代の本と比べてストーリーの起伏がなだらかだ。そういう本を読んでみると、いかにドラマチックに乱高下するストーリーの現代作品に慣れているのかよくわかる。強烈な味のジャンクフードばかり食べて濃い味に慣れた舌を薄味の味噌汁でリセットするような、健康的な試みに感じる。時代背景がわからず難解な部分も時々あるが、全体的には古典新訳という現代の言葉で読めるわかりやすい話だった。
特に魅力的なのは自然の風景の描写だ。自然の風景には時代背景はあまり関係ない。純粋にみずみずしい美しさを感じられる。この本には風景描写や状況描写の割合が多く、複雑な人間関係を描く小説とはまた違う、風景画を眺めているような癒しを感じる。主人公は戦争に傷兵運搬を担う中尉として参加しているので当然戦争の描写は多いが、その様子が風景として絶妙な距離感で描かれていて、美しいと感じてしまうのだ。
そして、主人公が恋をする相手もまた、魅力的に描かれる。女性の美しさの表現には、当時の価値観が反映されている。こんな褒め方は現代ではしないという時代を反映した比喩表現に出会えるのも、古典の面白さだ。ただ、人間関係には文化的背景が含まれるので、何に怒っているのかわからなかったり、どういう目的でその行動をとったのかわからなかったりもする。読んでいるうちにわかる事もあったが、最後まで意図がわからない部分もあった。ただ、部分的にわからないところがあっても、全体的な流れを見失うほどではなかった。
近日中に下巻も読むつもりだ。主人公の立場や、なぜ志願して戦争に参加したのかや、彼女とどうなっていくかなど、感情描写の割合が増えていきそうで、それはそれでまた楽しみだ。
『武器よさらば(上)』 ヘミングウェイ 3.0