【映画レビュー】ナイトメア・アリー
有名な鬼才が作った、人の心を巧みに操る奴らが金持ちを騙して大金を得る話、という傑作か超駄作か両極端っぽいアマプラのあらすじに惹かれて見てみたが、そういう話ではない(間違ってはいないが本流ではない)し、傑作でも駄作でもないという何とも微妙な感じだ。
ただ、この映画は私の感想よりは世間で絶賛されているし、批評家たちにも評価されている。単に私にさほど刺さらなかっただけである。
訳アリ男があやしいカーニバルの一座の仕事にありつき、そこで出会った座員の男から人の心を読む技術を学ぶ。その技術をもとにカーニバルを抜けて稼げるショーを始めるが、さらに大金を稼ぐために金持ち相手のあやしい仕事をするようになる。
映画全体を包む、ダークでエグい雰囲気は完璧だ。1940年くらいの、ケバケバと飾り立ててはいるものの中身は非人道的な見世物小屋というカーニバルの一座がその象徴である。訳アリっぽい主人公が流れ着くにふさわしい暗澹とした、しかしそんな人間たちの不思議な連帯感もある場所だ。そこを抜け出した先で出会う謎の女性も、いかにもあやしくて魅力たっぷりだ。お金持ちの大豪邸とか、当時の路地を走る車などから人々のファッションに至るまで、それはもう完璧である。
ただ、すごい映画だなと思う反面、どうも刺さってこないなという感じもしていた。面白そうな要素がすごくたくさんあって、どこかで興奮したり驚いたり一気に心を掴まれる瞬間がありそうだと思っていたのだけど、結局最後までそれが起こらずに終わってしまった。
何か、すごいけど見た事あるものの集合だったように感じてしまったのだ。この映画のテーマは人間の醜さのようだが、確かにそれは作り込まれた世界観でしっかり描かれているのだけど、わりとよくあるテーマでもある。人の心を読むトリックや言葉巧みに相手を騙す様子なども面白そうなのに、ものすごく見慣れて驚きのないマジックのようだ。あやしい女だって、追い込まれて転落していく男だって、すごいはずなのに驚きや新鮮さがない。
ストーリーも起伏に富んでいるように見えてずっと暗くて変化がないように感じた。
結末も、その少し前に察しが付いてしまう。もともと薄っすらと最終的な伏線になるのだろうとは感じていたものが、かなり明確に示唆されて確定するという感じだ。なので最後の10分ほどは、そこに辿り着くまでを見守るような感じになってしまう。いざそれが起こった時の主人公の行動や表れる感情は意外だったが、それまでの評価をひっくり返すほどではなかった。
映画の時間軸の前の主人公の行動についても、勿体ぶるほどでは……と感じた。
かなりカネをかけて作った映画だろうし、キャストも本当にすごい。すごいんだけど、全然駄作とかではないんだけど、本当に作り込まれていると思うんだけど、たまたま好みじゃなかったのかな……?
好みって残酷だな、こんな良さそうな映画を評価できないんだから。
『ナイトメア・アリー』 2.5