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【小説レビュー】『用心棒』デイヴィッド・ゴードン

読みやすくてわりと面白い、映画を見ているような感覚で読めるエンタメ性の高い本。ちょっとハードボイルドっぽい雰囲気があって、個人的にはそこが気に入った。

ストリップクラブの用心棒ジョーが、知り合いに誘われ強盗の計画に乗るが、そこで起きた事件からさらに大きな事件に巻き込まれていく物語。
このジョーという男、ハーバード大学中退で軍歴もある、いかにもハードボイルド小説の主人公という雰囲気の魅力的な男だ。そんな彼がどうしてストリップクラブの用心棒なんてしているんだろう?という部分はあまり語られないのだけど、まぁ物語のほとんどはストリップクラブで起こらないのでさほど気にする必要はない。彼がいるのはギャングや犯罪者たちの世界で、彼のボスもギャングだし、彼も強盗に誘われて小遣い稼ぎ気分で参加するような人間だ。ただし、根っからの悪人という訳ではなく、善良な人間にはなるべく善良であろうとする。完全に善良とは言い切れず、ピンチの時にはやむを得ず脅したりするけど。彼をハードボイルド小説の主役として楽しめる程度に好感を持って、カッコ良い主人公として読めるというのが私にとっては一番重要だった。

だからまあ、ストーリーはものすごく秀逸という程ではないけど、ある程度満足できる感じなのでこれで十分だ。いろんな事が起こるし、どんでん返しもあるし、破綻も感じなかった。かなり色んな人物や出来事を詰め込んでいるので、もう少しここを深く掘り下げて欲しかったなみたいな物足りなさを感じる部分もあったし、そのせいで結末に尻すぼみ感もあったけど、まぁでも十分良い出来栄えだと思う。私が基本的に作品にキャラクターを求め、キャラクターのためのストーリーだと思っているので許せているだけで、ストーリー重視のクライム小説を求めている人は不満が残るかもしれないが。

作者は映画オタクらしいのだけど、その情報がなくても気付くくらい作品から映画らしさを感じる。それぞれの場面が映画のように描かれ、映画のように場面が変わる印象を受けるのだ。それに終盤の大捕物の様子なんて、本当に映画的だなと思った。主人公とFBIの女性捜査官の関係を中心に、二人がちょうど良い距離感ですれ違っている感じなんかも、映画らしいエンタメ感があった。
その手法はおおよそ成功していた。ただ、終盤の大捕物に関しては、あまりハラハラしない感じがしてしまった。映像で見る分には終盤にあちこち逃げ回って大勢を巻き込む派手な追い掛けっこや乱闘やアクションがあると盛り上がって良いのだけど、小説を読むのなら見た目は地味で動きがなくても緊迫するような心理描写とかの方が満足感は得られるんだなと思った。おそらくこれが尻すぼみに感じてしまった一番の理由だろう。

しかし全体的には魅力的なキャラクターが活躍する、面白いストーリーという感じだった。読みやすいし、満足度の高いエンタメ小説だと思う。
続編があって、そちらの評判が大変良いらしいので、気が向いたら読んでみようと思う。

『用心棒』 デイヴィッド・ゴードン 3.5

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