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くまモンに学ぶ仕事の流儀(番外編・後編)プロフェッショナルなのは誰か

前編では、熊本県知事、デザイナーの水野学さん、着ぐるみ制作会社をご紹介しましたが、後編は以下の3組をご紹介します。

④県庁の皆さん

プロフェッショナルでも取り上げられていたように、くまモンの活動を支えているのは知事直轄の「くまモングループ」(元くまもとブランド推進課)という部署に所属する県庁職員の皆さんです。彼らが、くまモンの利用許諾申請を審査しているだけでなく、くまモンの活動そのものを決定しているわけで、ある意味くまモンの頭脳とも言えます。ただでさえ、行政職員は自分達が先頭に立って「仕掛ける」ことは苦手なはず。税金を使うわけですから失敗は許されず、県民から厳しい目線にも晒されます。にも関わらず、誕生から10年弱の間に震災という危機を2度乗り越え、驚くべき成果をあげてきました。私は7年間ほどくまモンの活動を観察し続けてきましたが、ガッカリさせられたことは1度もないどころか、「そうきたか!」の連続です。小山薫堂という強力なアドバイザーを擁しているとはいえ、くまモングループの著作を読む限り(実際に書いているのは2010年4月〜2016年3月までくまもとブランド推進課課長だった成尾雅貴氏)、具体的な活動内容のほとんどは県庁内で決定しているようです。では、彼らがここまでの成功を収めることができた要因がなんだったのでしょうか。著作から垣間見えるのは、どのプロジェクトにおいても熊本県としては何を目指すのか?くまモンが果たすべき役割は何か?を常にはっきりと念頭においている、ということです。活動開始当初は、そのあたりもまだ迷いの中で、小山薫堂の著書を読み込んだり、直接指示を仰ぎながら手探りで進んでいた様子も伺えます。ただ、プロジェクトを重ね手応えを得るうちに、目指す姿が明確になっていったのではないでしょうか。だから、選択を迷うようなシーンがあっても最後にはブレない決定ができるし、仮に批判を受けても、なぜやったのかをしっかりと説明できるのです。そして、常にチーム内で議論を交わし、県民の声に耳を傾け、街の様子に目を配ることで、変化に対応できるのではないでしょうか。少子化が進み、財政的に苦しい地方自治体が増える中、行政と言えど、受動的に住民のリクエストに応えるだけでなく、未来のあるべき姿をどう描くのか戦略的に取捨選択しなければならない時代になりました。ゆるキャラとしてのくまモンの成功を真似することはお勧めしませんが、くまモンを育てた熊本県の仕事スタイルには、学ぶことが多いのではないかと思います。

⑤着ぐるみの中の人

着ぐるみ着ぐるみというと、熱狂的なファンからお叱りを受けそうですが、やはりどうしても欠かすことができないのが、くまモンの体とも言うべき”中の人”です。というのは、一般的に地方のゆるキャラの場合、中の人には主催する行政の職員などが駆り出されているケースも多く、また、着ぐるみの貸し出しを行っているところも珍しくありません。しかしこの場合、同じゆるキャラなのに登場したイベントによって動きやサイズが違う、ということが発生します。とある日には機敏に動きまわり激しいダンスもこなしていたのに、とある日には棒立ちどころか身長が妙に高くて着ぐるみから脚がはみ出している、なんてことも。どこでも手軽に動画が撮れて簡単に公開ができる時代にあって、これでは少々興ざめです。ところがくまモンは、「くまモンはあくまでくまモン」ということで着ぐるみの貸し出しは行っていないのはもちろんのこと、いつどの動画を見ても、動きに差異がなく、ダンスの癖さえも統一感があるのです。現在くまモンの主な活動拠点は、熊本県、東京、大阪にあり、連日スケジュールがぎっしりなので、どんなに少なく見積もっても5体は同時に動いているはずなのですが、長年見続けているファンでも、今日は動きがいいとか悪いとか、今日のコは愛想がいいとか悪いとか、わずかでも思い起こさせる隙がありません。何曲ものオリジナルダンスを覚え、時には話題のヒット曲や共演するゆるキャラのオリジナルダンスまで披露しなければならない状況を考えると、さすがにプロのダンサーや着ぐるみアクターと呼ばれる専門家が担っているとは思うのですが、よほど詳細な動きのマニュアルがあるのか、お互いが動画を見ながら学んでいるのか...。
そしてもうひとつ”中の人”について、プロフェッショナルを見て私も驚いたことがあります。それは、実は思っていた以上に”中の人”が主体的に行動しているということ。普段ファンの前に姿を現す時のくまモンも、ステージを盛り上げるという点では主体的で、アテンドのお姉さんを振り回したりはしているのですが、あくまでもキャラクターとしての役割をしっかり演じている、ともとれます。ところが、番組の中で新人の県庁職員と絡むくまモンは、完全に指導者的なポジションで、「落ち着け」と言わんばかりに手の平に「人」という字を書いて飲み込ませたり、「妥協するな」と言わんばかりに写真を何度も撮り直させたりしていました。番組上の演出か?とも穿ってみましたが、そこは一応天下のNHKが誇るドキュメンタリー番組。いくらキャラクターが主役の回と言えど、創作はしないと思うのです。となると、本当にあれだけ”中の人”が意思をもって職員を動かしているということです。それともやはり中に入っているのも県庁職員なのか...。”中の人”に関してはさすがに情報が出てこないので、こればかりは永遠に確認する術はなさそうですし、「くまモンはあくまでくまモン」なんですけどね。

⑥アテンドのお姉さん/お兄さん

多くのゆるキャラで共通ですが、ゆるキャラには基本的にアテンド(引率?)のお姉さんやお兄さんがいます。自力では歩けないキャラクターの場合には手を引いてあげたり、喋らないキャラクターの代わりに自己紹介をしたり、名産品を紹介したり、ダンスを解説付きで踊ったり、と忙しそうに立ち振る舞っている姿が印象的です。くまモンの場合(くまモン隊のお姉さん/お兄さんと呼ばれます)は、手を引いてあげる必要こそないものの、オリジナルダンスの曲数も多く(約10曲)、出演はTVからイベントまで多岐に渡ります。スケジュールを調整しながら、合間にくまモンの写真を撮り、ステージ上ではほぼアドリブのくまモンとやりとりをしながら名産品を紹介する役目もあります。なによりくまモンの周りにはすぐに大量の人が集まってしまうのでその先導だけでも体力を奪われそうです。にも関わらず、他のどのゆるキャラのアテンドと比べても、くまモン隊の皆さんは元気な声を出し、笑顔を崩しません。熊本、東京、大阪と計10人ほどのアテンドがいますが、全員が共通して気の抜けたところを見せないのです。しかも、毎年2月〜3月に全国数カ所で行われる「くまモンファン感謝祭」では、オリジナルダンスの他、さらにその年話題のダンスメドレーなど全20曲近くの振り付けを覚え、衣装や小道具を制作しステージを盛り上げます。中にはダンスの元インストラクターといった方もいるようですが、全くダンス経験のなさそうな方もいて、苦労はひとしおだろうな、と推察します。それでも、そんなお姉さん/お兄さんの頑張りと、頑張ったがゆえに見せる涙が、時にくまモン以上に感動を誘い、ファンを惹きつけているのではないかと思います。

このように、くまモンは多くのプロフェッショナルに支えられて今日があるということがおわかりいただけたでしょうか。
最後に、番外編のさらにオマケです。番組の中でもチラリと紹介されていた、くまモングッズ商標第1号『くまモン仏壇』をつくった社長さんです。

オマケ:仏壇屋さんの社長さん
番組内ではサラリと「零細企業を救った」と紹介されていましたが、あの仏壇が商標第1号になったのは私の予想では単なる偶然ではありません。というのもあの社長さん、くまモン仏壇をただ売るだけでなく、自らYoutubeチャンネルを解説してくまモン仏壇の紹介、メディア取材の告知を行い、さらにくまモン仏壇が東京のご家庭に売れた際には、自ら車を運転し東京まで納品に向かい、その様子をYoutubeで配信するという気合いの入り方。この社長さんなら、くまモンに頼らずとも会社を立て直してしまったのではないか、と思うほどの商売人です。商標第1号になったのも、よほどフライング気味に申請を出したか、もしくは第1号にしてくれ、とブランド推進課に直訴しまくったのではないか、と推察しています。いずれにしても、今や2万8000種にも及ぶくまモングッズの第1号が「仏壇」というのは、くまモンを語る上でも面白いエピソードになったわけですから、この社長さんの頑張りはとても価値があったと思うのです。

ひとまず後編もここまで。
これからもまだ話題を振りまいてくれそうなので、まだまだ書いていきますよ。

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