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行政評価なんて要らない

行政評価調書の作成依頼が来たぞ
記入欄が多くて毎年手間がかかるけど
どうせ現状維持のC評価にするんだろ
これ何かの役に立ってるんだろうか
#ジブリで学ぶ自治体財政
 
自治体の予算編成手法や財政健全化の取り組みについてご相談を受けることが増えていますが、そんな中で「行政評価と資源配分の連動」というテーマでご質問を受けました。
毎年度の予算編成にあたっては、現在取り組んでいる施策や事務事業の成果を評価し、その結果を踏まえ、より資源投入すべきもの、あるいは縮小廃止に舵を切るべきものを整理したうえでその評価に即した資源配分を行うべき、というに認識に基づくものです。
実際、多くの自治体では前年度の事務事業について夏から秋にかけて個別に評価調書を作成し、それを行政評価担当課において取りまとめ、秋に行われる議会の決算審査に付す資料として調製し、その評価を以て次年度予算編成に臨んでいます。
この取り組みの濃淡は様々ですが、時々聞こえてくるのは「何のためにやっているのかわからない」という怨嗟の声。
ほとんどの事務事業が現状維持またはプラス方向での改善という評価にとどまり、事業の取捨選択、適切な資源配分の材料になっているのかが見えづらいという意見をよく聞きます。
財政課で予算編成を担当していた私の実感としても、このような制度に基づく「行政評価と資源配分の連動」についてはかなり懐疑的(笑)で、そのことは以前にも記事にしています。

私は、行政評価そのものが不要だと言っているわけでありません。
少なくとも制度として全庁一律の仕組みで行う「事務事業評価」は毎年度の予算編成にはあまり役に立たないと申し上げているのです。
行政評価には、個別の事務事業それぞれの目的、手法と成果を照らし、事業の成否を判断する「事務事業評価」と、同一目的の事務事業を束ね施策として推進できたかどうかを評価する「施策評価(政策評価ともいう)」に大別されますが、行政評価のことを話す際に、この二つが混同され、かつそのそれぞれが、誰がいつ何を評価し、その結果を誰がいつどのように活用するのかがきちんと整理されていないことから、評価結果が活用されている実感もわかぬまま、行政評価の旗を振る官房部門の自己満足と職員の徒労感だけが残るという悲しい結果になっているのです。
先日、地方公務員の情報共有サイトで「行政評価がうまくいっている事例があれば教えてください」という質問があり、たくさんの回答が寄せられていましたが、様式が精緻であるかどうかというような評価そのものの制度設計への評価が中心になっていたように拝見しました。
個々の評価対象を多角的にとらえ、いくつかの評価視点でその事務事業あるいは施策の成果を評価するモノサシそのものの出来不出来も大事ですが、それ以上に大事なのは、その行政評価をいつ誰がどのように活用する仕組みとなっているか、その活用方法に適した時期、業務量、体制になっているか、という点で、その出来不出来を評価すべきだと思っています。
そういう視点で見たときに、どの事例が好事例なのか私は情報を持ち合わせていませんので、この記事をご覧になった方でピンとくる事例がありましたら是非ご教示ください。
 
事務事業評価にせよ、施策評価にせよ、その結果を誰がいつ活用するか、それがきちんとできる時期、対象、評価者、評価基準、評価後のフローとなっているか、が評価制度そのものの出来不出来を左右します。
その視点で行くと、個々の「事務事業評価」については、事業所管課でその事業が目標通りうまくいっているのかをセルフチェックし、現在の事務事業の改善につなげていく役割がありますので、年度末までに当該事務事業の遂行内容とその時点での評価を所属として行い、次年度の業務開始時に当該年度の業務遂行計画立案に反映すべきでしょう。
ここでは、全ての事務事業を対象に各所属が評価結果を自ら活用するために行うものですので、官房部門等の庁内第三者組織からの評価は必須ではないと考えます。
 
次に、例年9月から10月に議会にて行われる決算審査において、自治体全体として前年度予算の執行について議会(つまり市民)から認定を受けるに際して、必要な資料を提供し、議会の場で質疑を受けることで審査され認定されるという手続きがありますので、そこでどの事務事業について、あるいは施策について評価の対象とするか、どの程度の粗さ、細かさで議会審査に付すかというのは自治体議会(つまり市民)の求めに応じる必要があります。
議会の審査日程は限られており、すべての事務事業について審査を行うことは現実的ではないと考えられますので、総合計画を牽引する重要施策といった観点で抽出した「重要施策」の単位で前年度の「施策評価」を行い、その施策を牽引する代表的な事務事業の評価と併せて資料を調製するくらいが適切だと私は思います。
また、議会とは別に市民が評価するために資料を公開するという仕組みを持つ場合には、その市民評価を行政内部にどうフィードバックするかという点で(決算議会の屋上屋にならないように)整理する必要があります。
 
冒頭で挙げられたように、n年度において実施するn+1年度予算編成にn-1年度の行政評価を活かすという仕組みを取る場合には、予算編成過程で誰がいつ評価調書を作成し、予算査定(資源配分)にどう活用するかというところは、予算編成手法、過程をどう設計するかという自治体内部の意思決定プロセスとその決定権者の在り方の問題になりますので、これは自治体で千差万別です。
n-1年度の評価をn+1年度の資源配分に生かすというタイムラグがあり、そこにn年度の事業進捗やその評価も加味していかざるを得ないし、資源配分は行政評価だけが判断基準になりえない(うまくいっているからより資源投入する場合もあればその逆もありうる)ということを考えると、あまりここで精緻に行政評価と資源配分を連動させることは難しいと私は考えています。
考えられるのは、枠配分予算制度において各部局に配分した財源を活用し部局内で予算編成を行う際に、当該部局内で各事務事業の優先順位を部局長が判断するうえで部局内各課の「事務事業評価」調書からそれぞれの進捗や成果、課題を俯瞰する資料として活用する場合、あるいは企画や財政といった官房部門が首長が発する予算編成方針を策定するために自治体全体の施策進捗を俯瞰し、特にn+1年度に財源を別途配分し力を入れる施策を抽出する際に、議会の決算審査に付すために作成した「施策評価」調書を活用するといった場合くらいではないかと思います。
 
私が行政評価として必ず行う必要があると考えているのは、総合計画の進捗管理としての施策評価です。
その場合に、対象となる事業は全ての事務事業なのかそれとも各施策を代表する重点事業だけでいいのか、評価は毎年するのかそれとも総合計画の実施計画の改定にあたって行う(通常3年から5年のスパン)ことでよいのか、この評価に議会や市民はどのように関わるのか、という点をきちんと整理する必要がありますし、先に掲げた毎年度の事務事業評価や施策評価の延長線上に置くのか、別途3~5年に一度、実施計画改定時のイベントとして実施するのか、も自治体、議会、市民の総意で定める必要があります。
私は、この段階でしっかり市民も含めた外部の意見(総合計画審議会等)も取り入れた施策評価を行えば、毎年度の施策評価は議会の決算審査に委ね、事務事業評価は各所属の任意様式、項目によるセルフチェックで十分だと考えています。
 
少なくともこれまで述べたように、各課での事務事業評価、議会の決算審査、予算編成、総合計画進捗管理という4層の構造があるということが自治体内外で正しく認識され、その構造ごとに必要な評価対象、評価者、評価手法、評価基準が整理されていて、かつその必要性や効果、活用手法の妥当性が評価制度担当課、評価される事業の担当課職員、企画や財政といった官房部門、首長、議会、市民が同一の理解をしていないと、徒労感ややってる感だけが先行するむなしい制度になってしまうと私は思っています。
行政評価は、その評価結果を誰がいつ活用するのかで対象とする事業もそのタイミングも評価の細かさ、粗さも異なります
行政評価に徒労感を感じている職員の皆さん、少なくとも自らの所管する事務事業の評価だけは、自分が今行っている仕事の意味を考える上で必要な行為ですので、そこだけは「何のために行うのか」を意識したうえで、その目的に即して実施し、その結果を自ら活用してください。
また、財政や企画などの官房部門が全庁に照会して資料を作らせる行為は目的の共有がなければ現場をただのレンガ職人に貶める罪でしかありません
行政評価を担当する所属においては、その目的をきちんと定め、その目的を達成できる最低限の作業を目的の共有とともにお願いすることが官房部門の守るべき最も重要な責務だと肝に銘じ、現在の仕事を検証してみてください。
 
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
 
★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
 
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