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結局桶屋は儲かったのか

子どもたちに夢と希望を
子育て世帯の負担軽減を
コロナで傷んだ経済の再生を
すべて私たちにお任せください
#ジブリで学ぶ自治体財政

今週あたりから全国の都道府県,市町村の令和4年度当初予算について続々と記者発表されていくことと思います。
各自治体の財政課の皆さんをはじめ予算編成作業に携わった皆さん,これでやっと一区切りですね。お疲れさまでした。
このコロナ禍の中,限られた財源を効果的に活用し,新たな社会課題への対応や多様な市民ニーズに応えるための新規・拡充の施策事業を散りばめたバラ色の予算が発表され,これから議会での審査に付されるわけですが,この作業に長年携わっていた私としては,予算が発表される時期だけ新規の施策事業にスポットライトが当たるというマスコミや議会での取り扱われ方に少しばかり居心地の悪さを感じます。

確かに新しい取り組みを始める際に,そのことに注目してほしいのは当局側も同じですが,問題はその注目の仕方です。
マスコミも議会も,一番確認しておかなければならないことをきちんと聞かないし,確認しないし,報じないんですよね。
昨年秋の総選挙の後,国の大型補正予算が組まれ,子育て世帯に対する臨時給付金が措置されることになりました。
自公両党がそれぞれ掲げていた公約を足して二で割ったような「落としどころ」にたどり着き,「バラマキ」との批判めいた意見も連日報じられていました。
私は昨年11月に,この一連の騒動について,この「バラマキ」批判は的を射たものなのかという記事を書きましたが,皆さん,覚えておいででしょうか。

今回,政府はこの給付で何を実現しようとしているのか。
実現しようとしている社会の姿に対して給付がどのように影響を与えるのか。
その影響は給付の目的,期待する効果と明らかな因果関係を持つのか。
給付によって解決しようとしていた課題はどの程度解決するのか。
その解決の程度や確からしさに比して,その給付に必要な予算額は適切か。
政策を立案し実施する者が自らこのロジックモデル、論理展開を公言し,課題解決の道筋を国民に約束すれば,これを誠実に履行する必要が生じます。
現金を給付することは政策の実現手法であって,政策が実現する社会の姿を描いたものではありません。
政策立案時に実現したい未来,ありたい姿を提示し,その実現に向けて適切な手法を提案する。あらかじめこれらのことが示され,議論され,多くの人が納得しておけば,政策を正しく評価することができます。

今,バラマキ批判を展開する野党やマスコミに欠けているのはこの部分。
現状のどの部分を課題として認識するのか。
それをどのように変化させるべきか。
それはどのような手段を採るべきか。
目的を明らかにし,その手法との因果関係の道筋を立てれば,具体的な手法やその対象もおのずと絞られてくるでしょう。
どうすれば批判に耐えられるか,どうやって両論を足して二で割るか,といった駆け引きではなく,政策が成し遂げようとしていることをあらかじめ示し,事後に正しく評価する道筋を政策決定時の議論で明らかにすることが,今,最も重要なことなのです。

昨年12月にこの補正予算が成立し給付が開始された際には,どの自治体が一番早く給付するかといった意味のない競争をあおるだけで,その給付が何に使われたのか,どの所得層のどの部分の経済支援となったのか,それは「バラマキ」だったのか,それとも目的に合致した有効な施策だったのか,調査して政権与党に突きつける議員も,取材してそのことを報じるマスコミも現れません。
同じ補正予算で措置された生活困窮者向けの給付金についてもようやく給付事務の準備が整い,各自治体で手続きが進められることとなりましたが,こちらも給付後の議会やマスコミのツッコミ不足は否めないでしょう。
なぜなら,新規で着手する施策事業の目的や具体的な成果,そして目的と成果との間にあるロジックモデルについて,着手する段階で誰も確認していないからです。
始まる前に確認していなければ,それがうまくいったかどうかを検証することもできず,当然評価もできません。
評価ができなければ施策事業を実施した政治家,政党の評価もできませんし,今後同趣旨の施策事業を実施する際には前例が踏襲されるだけで改善がなされないという悪循環も生じます。

公党が公約として掲げて国政選挙で戦う以上,それぞれの施策事業の目的と手法の整合性や,手法そのものの妥当性については,各党で議論されているはずですが,それがどこまで私たち国民に伝わっているのか。
国や自治体の政策のなかには「良好な」「適切な」「積極的に」といった定性的な語句で飾られたポエムのようなあいまいな目標水準を掲げ,「推進する」「目指す」「図る」などその到達を名言しない逃げ道を用意しているおかげで,目標達成について定量的に測定評価しないで済ませるという例が見られます。
そうやって評価があいまいなことで,やり方も体制も投入資源も見直されず,粛々と「やるべきことをやるだけ」が継続されるという例も散見されます。
今回の事案も政策というものが持つそういう負の側面にもっと目を向けるべきではないでしょうか。

「風が吹けば桶屋が儲かる」と言いますが,結局桶屋は儲かったのか。
儲からなかったときに原因を検証するためには,風が吹くことと桶屋が儲かることの因果関係をロジックモデルとして事前に共有し,その各過程が想定通り原因と結果の関係としてつながったのかを確認できるようにしておかなければならず,その確認をどの測定指標で行うか,といったことも事前に決めておかなければなりません。
それらを客観的に明らかにすることは一義的には政策提案者の務めですが,それが十分説明されない場合や,ご都合主義で客観性,信憑性に乏しい場合に備え,その施策事業が提案された段階で,野党やマスコミがしっかりと確認しておく必要があると思うのです。
これから始まる全国の自治体での当初予算記者発表と議会審査の中で,どれだけこのことが議論され,事後に検証するための楔を打つことができるか。
いずれ来る財政危機の中で一度始めた事業が止められないという負の連鎖を断ち切る際に,この楔があるかないかでまったく違う議論になることを覚えておいてほしいと思います。

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★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
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