スーパー側用人求む
市長殺すにゃ刃物は要らぬ
側用人が寝てりゃいい
声を聴くことも思いを語ることも
彼らがいないと何もできないんだからね
#ジブリで学ぶ自治体財政
昨日の投稿で,首長が市民との「対話」の場で出たアイデアをその場のノリで引き取ってくるのを控えていただくには,首長が配下の各職場,職員と普段から「対話」に勤しみ,その現状をきちんと理解共感しておくこと,と書きました。
しかしながら,首長が組織の中で配下の各職場,職員と普段から「対話」に勤しむなんてことはそう簡単なことではありません。
都道府県や政令指定都市規模の大きな自治体では首長と普段から接することができるのは,自治体運営の枢要を担う財政,企画,人事,秘書といった官房部門の役職クラス。
経験の浅い職員,現場が長い職員にとっては首長なんて報道でしか顔を見たことがないというくらいの距離感で,「対話」どころかその声を直接聞く機会すらめったにありません。
財政課は他の職場から嫌われるという話はよく書きますが,首長と直接接する特権階級と目される企画や人事,秘書課などは他の職場,職員からどう思われているのでしょうか。
首長の周りに仕えるこれらの官房部門のことを「側用人」と揶揄することがありますが,そもそも側用人とは江戸時代に将軍に近く仕え,将軍の命を老中に伝達し,老中の上申を将軍に取り継ぐ要職。
トップと現場をつなぐ情報伝達の要を担う重要な役職です。
首長がいくら人徳や才覚に長けていても,判断,行動の基礎となる情報は首長の耳目となって働く官房部門の支えがなければ首長の元に届きませんし,首長の思いを直接職員一人ひとりに語り掛けることは難しく,各職員,職場に正しくタイムリーに伝達することは官房部門に課せられた重責です。
首長と職員の「対話」が成立するかどうかは,その間に入って架け橋となる官房部門の「側用人」としての能力にかかっているのです。
組織内の情報共有は官房部門がすべて握っているわけではありません。
官房部門に集まってくる情報は限られており、その限られた情報をもとに強い力で舵を切ると、全体統一的な行動は担保できますが、それが「最適」であるかどうかは担保できません。
「全体最適」のための調整を強い官房だけに委ねるのではなく、組織のタテヨコナナメの意思疎通の橋渡しを担う各組織の階層ごとの長が、それぞれ「全体最適」を意識できる人材であり、かつ積極的、効果的に情報伝達、共有を行うことで、組織としての時差、温度差を可能な限り埋めていくことが、「全体最適」を図れる「自律経営」という組織運営の基礎となる、と私は考えます。
ここで述べている,各組織の階層ごとの長がタテヨコナナメの意思疎通の橋渡しを行い,組織全体に情報伝達の血流が淀みなく循環するための環境や仕組み,組織風土を創ることができるのもやはり官房部門の仕事だと思います。
私は財政調整課長という役職でこの役割を痛感しました。
組織の中で意見が異なるとき,それでも結論を出さなければいけないとき,財政課が中心になって作る予算編成という名のテーブルは,話しにくいことを話して結論を出す,格好の場です。
それは,組織内の意思疎通を円滑にし,思いを共有するための「対話」の場で,財政課がファシリテーターの役割を務めていたということだったのではないかと思うのです。
これは財政部門だけでなく,総合計画や政策を所管する企画部門,組織体制や人事を司る人事部門,そして常日頃首長の傍でその動向を把握し首長自身の業務を管理し補佐する秘書部門にも同じことが言えます。
意思疎通の目詰まりは組織の機能不全をもたらします。
現場の情報が正確に上がらなければ,首長は判断を行うことができません。
首長の思いが職員に伝わらなければ,現場でその意を汲んで行動することができません。
さらに加えて,組織内で利害が相反した時に互いを許容し同じ方向を向くことができなければ,結論が得られず,問題を解決することができません。
首長と各職員,あるいは各職場間の「対話」的な関係構築には,これらの官房部門がどれだけ職員や組織の間をつなぐ「対話」の橋を架けることができるか,その架け橋を使って首長の思いを現場へ,現場の思いを首長へとつなぐことができるか,さらには現場同士,現場と官房部門が常日頃から意思を通じ,同じ方向を向いて自治体運営に邁進できるか,その力量次第なのです。
果たして,全国の自治体で官房部門が組織内対話の重要性をどの程度認識し,その仕組み構築にどの程度尽力しているでしょうか。
自治体が担うべき多岐にわたる業務を迅速,円滑,公平,公正に遂行するためには精緻な業務分担をあらかじめ行い,業務を定型化しておくことも必要ですが,その業務遂行が首長の意思の下,組織を挙げて行われるためにも,あるいは既存の枠に収まらない新たな課題に柔軟に対応するためにも,円滑な組織内「対話」ができる環境や仕組みは自治体として必ず備えなければならないものです。
財政,企画,人事,秘書等の官房部門は,江戸時代の側用人さながらにトップの情報収集・伝達の補佐を担うことはもちろんですが,加えて組織内の目詰まりが起こらないよう潤滑油となって間に入り調整を行うこと,また職員同士,職場同士での対話が円滑に行われる仕組みや風土づくりまで視野に入れた「スーパー側用人」としての幅広い活動とそれにふさわしい能力が求められていると私は思っています。
首長のご機嫌ばかりを忖度して首長に上げる情報を操り,あるいは首長の威を借りて組織を牛耳るなどというのは側用人としてもってのほか。
皆さんの自治体では,側用人はきちんと働いていますか?
「スーパー側用人」としての働きはいかがですか?
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https://note.com/yumifumi69/n/ndcb55df1912a
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
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