モノ言わぬことの功罪
赤字国債頼みの財政運営についてひとこと
過去の経済対策の効果についてひとこと
国民への情報提供不足についてひとこと
黙ってないで国民の疑問に答えてくださいよ
#ジブリで学ぶ自治体財政
ここ数日,総選挙での政策論争を契機とした現職の財務事務次官の雑誌への寄稿について,世の中に波紋が広がっています。
赤字国債頼みの国家運営への危惧を示したこの意見については,私自身は賛同しますし,そのことはこれまでも再三述べてきたつもりです。
赤字国債による国家財政破綻の可能性については,財務省が増税やむなしとの世論を形成するために吹聴しているデマであって,会計学や経済理論から見れば国債で国の財政破綻など起こりようがないという主張もあり,今回の事務次官の寄稿についてもそのような立場から異を唱えている方もおられるようです。
私はその理論そのものに十分な納得感はないのですが,それはさておき,そもそも経済理論は経験則と経済原理からなる予想の世界なので,実際にどうなるのか,どちらが正しいのかを争っても意味はなく,またどちらが正しくても,それを言い当てることができなかったからと言って,私もあまたの評論家の皆さんもなんら責任を取る必要がないという意味で,その真偽,当否を争うことはしません。
私が,この件で最も問題だと思っていることは,以前も書きましたが,政府自身がこの赤字国債大量発行をどうとらえ,どう対処していこうと考えているのか,を明らかにしていないことです。
国の財政運営の失敗が引き金となって,国が担っている社会保障その他国民生活を支える行政サービスの量や質が影響を受けないか,あるいは経済が混乱し企業の経済活動や労働市場に影響を及ぼすことで社会不安が増大しないか,ひいては物価や金利の上昇,金融資産の価値減少など個人の日常生活への影響に懸念はないのか。
このような国民の懸念や危惧に対して,政府は果たして財政規律堅持のためにプライマリーバランスの黒字化を目指すのか,目指すとすればいつまでにどのような手段(歳出削減,歳入増加)で実現するのか,を明らかにする必要がありますし,もし仮に前述の「国債で国は破綻しない」という論に立つのであれば,「破綻しないのか」「国民生活への影響はないのか」という懸念,危惧を払しょくする説明責任を果たす必要がある,というのが私の考えです。
そういう意味で,今回の事務次官の寄稿をきっかけにこの問題が表舞台で議論されるようになることは大変喜ばしく,投じられた一石には大きな意味がありましたし,これまでこの問題に無関心で不勉強だったマスコミからもきちんと報じてもらえるようになり,この問題のことを本当に知りたかった国民にも情報が伝わる機会が増えるという私自身の期待も高まってきました。
しかし,この件に関する報道等の中で少し気になったのは,この事務次官個人の意見表明について「けしからん」とする論調です。
ネットでの匿名コメントなどを見ると政府方針に反する意見を表明することは国家公務員としてあるまじき行為であり更迭すべきであるという主張も聞こえますし,政府内にも擁護論から不快感まで様々な意見があるようです。
私自身の感覚としては,この次官の意見表明は,政府方針に従わずやるべきことを怠ったり,方針を故意に捻じ曲げたりしたというわけではなく,あくまでも自身が思っていることやそれにまつわる事実を述べたに過ぎず,反政府行為ではないし国家公務員法違反でもないと思っています。
むしろ,私が再三述べてきた,国民の行政運営リテラシー向上のために「中の人」が持っている知識や情報をわかりやすく開示した,ということで公務員のあるべき姿なのではないかとすら思っていて,この「けしからん」というご意見に対して疑問を感じてしまうのです。
もちろん,この次官の直属の上司である財務大臣や総理大臣その他閣僚,あるいは組織内の部下職員たちから,同じ組織内で働く者として一枚岩でことにあたるべき組織の歩調を乱すのはその役職,組織内での地位からしていかがなものかという指摘を受けることはあろうかと思います。
しかし組織外部から「けしからん」という声を上げる方々は,政策や国家の運営は政治家が考え,議論し,国民に説明すべきことであって,一介の公務員が発言するなど分不相応でおこがましいという立場のようです。
政治家が政策を語ることは国民の判断を仰ぐうえで当然経るべき過程ですが,私が一人の国民の立場から考えるに,政治家の語る言葉だけではなく,行政運営の現場で生の情報に接し,日々政策議論を重ねている公務員諸氏からも,政治的なバイアスのかかっていない全体の奉仕者の立場からの情報開示をしてもらいたいと思いますし,そのほかにもマスコミや学識経験者の客観的な意見,そして当然に政治家の意見も聞き,それらを自分たち国民自身で理解し,政治に反映させることが本当の民主的な政策決定プロセスではないかと思います。
しかし,このために口を開くことが公務員の立場に身を置くと難しいのです。
公務員が政治的中立や組織への忠誠を盾に口をつぐみ,選挙にその言動が左右されやすい政治家の口を通じてしか国民に情報が開示されないという状況は,正常な民主主義が機能するためには避けるべきだと私は思います。
結局は,政治家を育てるのも,公務員を育てるのも,我々国民,市民。
職務上の守秘義務や政治的中立を守ったうえで,市民の行政運営リテラシー向上の力になれる,正しい情報を偏りなく伝えることができる公務員でありたいと私は思いますが,国民,市民がそれを求めていなければそんな公務員が育ち増えるわけはありません。
「国が悪い」「政治家が悪い」「公務員が悪い」と文句を言ってもそれは天に向かって唾を吐くようなもので,何の解決にもならないのですから,政治家任せにしないでジブンゴトとして現状を認識してほしいと思い,一般市民の皆さんにも期待のエールを送ったつもりです。
★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
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