高速道路の思い出
高速道路が嫌いだった。
もともと運転が嫌いだ。だけど公道ならまだ「こんなところにこんなお店できてたんだ」とか「あの小学生、制服おしやれだな」とか、少しは楽しみが見出せていた。
だけど高速は全然だめ。運転しかやることがなくて、ただただ運転をするためだけに自分が存在しているようで嫌なのだ。
だけど最近、高速があんまり嫌いではなくなった。なんなら少しだけ好き。高速道路に思い出ができたから。
高速道路に思い出ができたのは、ちょうど去年の今頃。妊娠後期だったわたしのお腹の中で、息子が元気いっぱいに動きまわっていた頃だった。
切迫流産をくり返し、絶対安静が多かった妊娠初期。やっと安定期を迎えたその頃は、とにかく動けるうちにたくさん仕事をしないと、と焦っていた。
あんまり妊娠を楽しめておらず、むしろ自分を責める気持ちとか、身体がきついなぁ、という気持ちが大きくてつらかった。だけど高速道路を運転するたびに「あ、いまお腹の中の子どもとふたりっきりだ」と思いつき、そう思った瞬間から温かい時間がながれた。
わたしは時間の限り、話しかけたり歌をうたったりした。(なぜか頭に浮かぶ歌は、布袋さんのバンビーナが多かったの謎だった)
パパはこんな人だよ、名前はもう考えているよ、ばーばとじーじは県外にいて、県外はここよりもずっと寒いんだよ。そんなことをひとりで話すたびに、わたしはとても幸せな時間を過ごしていると感じられたものだった。
最近、息子は保育園に入り、また高速道路に乗る機会が増えた。今はひとりだ。だけどわたしには高速道路で息子と2人っきりだった思い出があり、今でも高速道路を運転するたび鮮明に、その幸福感が浮かび上がる。
わたしはいつのまにか、高速道路が少しだけ好きになっていた。