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ばーちゃんの骨折
「ばーちゃん、グーパーしてみ?」
車椅子に乗せられ、ホゲーっと診察の順番を待っているばーちゃん(母)に言ってみた。
前日に転んで右肩を折り、今日は大きな病院に来ている。
じーちゃん(父)も一緒だ。
昨日は大変だった。
肩をやってるのに、なぜか立てない。歩けない。痛い痛いしか言わない。
どうにもままならぬばーちゃんを、支えたり、抱えたり、なだめすかしたりしながら
(あ、あたし介護無理…)と思った。
今日は紹介状を持って、大きな病院に来ている。
ここへ来る前もやっとこさだった。
「なんでまた病院行くん?」
「なんでて。肩が折れとるんよ、ばーちゃん。大きい病院で診てもらうんやで?」
じーちゃんの車に乗せるまで、何十分もかかった。
病院に着いてから、入り口の車椅子を取りに行き、ばーちゃんをそこに移動させる。
が、やはり歩けん、痛い、動かん!で、しまいには車椅子に上手く座れず、地べたに転がってしまった。
じーちゃんと2人してもダメだった。
急いで病院のスタッフを呼びに行く。
スタッフさん2人がなんとか車椅子に乗せてくれた。
「ばーちゃんごめんよ、転がしてしもた。ごめんよ」
受付に向かいながら
(無理、あたし介護無理)とまた思った。
ずいぶん待って、やっと診察をしてもらい、そこからレントゲンやらCTやらを撮りに、それぞれの窓口へ移動した。
車椅子をシャーっと押し、目的地に向かう。ファイルを受付に提出したらまたしばらくそこで待つから、とりあえず後ろの椅子に座るのだが、その度に車椅子をクルッと回してこちらへ引き寄せ、動かないようにロックをする。
移動の度にばーちゃんは、車椅子ごとクルクル舞っていた。
ちょっと笑った。
ごめん、ばーちゃん。
レントゲンやらがようやく終わり、再び診察室へ。
そこで冒頭へ戻る。
またしばらく待たなくてはいけない。
移動の途中、「トイレに行きたい」とか言うから、またすったもんだあり、じーちゃんも私も疲れていた。
ふとばーちゃんを見るとホゲーっとしているから、グーパーをさせてみたのだ。
「グーパー、グーパー」
私が手本を見せる。
ゆっくりグーパーするばーちゃん。
うむ。肩が折れてる方の手も、なんとかグーパー出来ている。よかった。
「これはできる?」
“サバラ”をやらせてみた。
できた(ぷっ)
“グワシ”もやらせてみる。
できた(ぷぷっ)
ばーちゃんが“サバラ”と“グワシ”をやっている。ぷるぷる。
ちょっと遊んでごめんよ、ばーちゃん。
やっと名前が呼ばれた。ややこしい折れ方をしているので、手術になるとのこと。明日、肩の専門のドクターが来るから、また詳しく説明を受けなければいけない。
と言うことで、この日は入院することになった。
「帰りたい。入院はせん」と言うばーちゃんに「明日また来るから」と言い聞かせ、入院準備を進める。
待ち時間の間、じーちゃんの、愚痴と心配がないまぜになった長い話を聞き、ナースの説明、ドクターの説明、入院手続きの説明なども聞き、情報量が多くて、私の脳は疲弊した。
病室には家族も入れなかった。
面会も一切できないと言う。
感染症対策のためらしい。
病院のパジャマに着替え、車椅子に乗せられて、休憩所に現れたばーちゃん。
しょざいなげなばーちゃんに、もう一度「明日来るから」と告げ、じーちゃんと病院をあとにした。
朝一番に来て、もう夕方になっていた。ぐったりだ。
帰りの車で、じーちゃんが30年くらい前のことから話し始めたので、もうやめてくれと思った。
これが先週のこと。
手術は明後日だ。
この間、ばーちゃんと連絡が取れず心配した。
たまらず病院に電話し、様子を教えてもらった。
そのあと、やっと本人からも電話がきた。
弱々しい声で「帰りたい」と言っていた。自分が手術することはわかっているのだろうか。眠っている間に終わるから大丈夫だよ。
おしゃべりじーちゃんは、食事を作る気力もないようで。まあ、今までばーちゃんのために作っていたから張り合いがなくなったのだろう。
でもばーちゃんの毛布やらは全部洗って、いつでも帰って来られるようにしていた。そう願う。
ドクターから、手術が終わってももう家には帰れませんと言われた時は泣いた。
でも、いろいろ話し合っていくうちに、なんとか自宅での生活へ向けて、その方向で行くことになった。
介護認定の申請も同時に進めている。
手を打つのが遅かったなぁと少し悔いている。じーちゃんに任せっきりだった。ごめん。
決してほんわか和やか仲良し老夫婦ではなかったが、じーちゃんがあんなにばーちゃんを心配していてびっくりしたし、じーちゃん自身もそんな自分に驚いているだろう。
長々と書いたが、新しい家族の形に向かい始めたのかも知れないと感じている。
でもまあしんどいな!
しんどいよ!
手術が成功して、ばーちゃんがまたピアノを弾くことができますように。
私のことがわかりますように。
寝たきりになりませんように。
その前に、私の体力作りが必要だ。
ヘタレもやし野郎が露呈してしまった。
ココロもも少し強くありたいものだ。
あーしんど!