ハチワレの歌に涙する
「今日、妊婦さん多くない?
ほら!あそこにも!」
当時大学生だった末の弟(夫の)と熊本市内を観光していたら、やたらと妊婦さんに出会った。
「お姉ちゃんが妊婦さんだからじゃない?」
ちんちん電車に乗る手前で弟がそう言った。
なるほどー!
感心しながら歩みを進め、いざ熊本城を目指す。
あの時、妊娠何ヶ月目だったかな。
身長があったのと、あまり太らなかったから、それほどお腹は出ていなかったけど、6ヶ月にはなっていただろう。
熊本城までの坂を、なぜか弟を引っ張るような形で先に歩いた。
フーフー。
やっと着いた。
お城の下の芝生のところに座って休憩した。
「ほら、また妊婦さん!」
手を繋いで散歩している若い夫婦(奥さんは妊婦さん)を指差すと、弟は笑っていた。
『カラーバス効果』だ。
「自分が意識している情報が自然と目に飛び込んでくる」という現象のことを指す。らしい。
最近はやたらと介護サービスの車が目にとまる。
今日も2、3台見かけた。
突然訪れた親の介護。
今は病院へ必要な物を持って行ったり、短い面会時間の中で、覇気なく、ただベッドに横たわっている母に声をかけたりしているだけだが。
喧嘩相手が居なくなった父まで、なんだか急に物忘れがひどくなったような気がしないでもない。
2人暮らしだった実家。
今日覗いたら、庭に春の花がたくさん咲いていて、甘い匂いがした。
春はウキウキもするけど、なんだか切ないような気持ちにもなる。
色が淡いせいだろうか。
昨日は昨日で夫とそこそこに激しい喧嘩をし、今日はお互い何事もなかったように振る舞ってはいるが、小さな火種が奥底で燻ってる感はある。
いつ、なんのきっかけで再燃するやも知れない小さな火種が……。
それを消し去るべく、以下、妄想をしてみた。
実際は
そして夫は夜勤に備えて寝た。
一人で簡単に夕食をすませ、なんとなくスマホで動画を観た。
ハチワレが歌っていた。
まっすぐな声で。
……
…
泣く。
春は情緒が忙しい。