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映画「リアル・ペイン~心の旅〜」を見た

ジェシー・アイゼンバーグが監督・脚本・製作・主演を務めた本作。
ユダヤ系の出自である自分自身の出来事を多分に投影された作品で、ジェシー・アイゼンバーグ本人が監督、脚本、主演も兼ねている点においてもとてもパーソナルで、私的な要素が散りばめられている印象になっている。

決して大きな規模の作品ではなく、極めて個人映画のような佇まいもありながら、しっかりとロードムービーの形態をとっていたり、しっかりと演出がされているカット割だったりと、映画のフォーマットでそれらをしっかりと落とし込んでいることにジェシー・アイゼンバーグの凄みを感じる。客観と主観のバランスが絶妙で、北野武のそれとも異なる主演と監督を兼ねる在り方にまず大きな発見がある。

アイゼンバーグは早口にまくしたてたり、小難しそうな男の芝居が上手い。特に『ソーシャルネットワーク』のそれはそうした気難しさのようなものを表現出来なければ形にならなかった作品だろう。

本作もそうした自分の上手い部分や得意なことをを実に巧みに活かしている。
誰から演出されるわけでもなく、自分自身の演出で自分の得意なものが何かを把握している感じが「作り」の部分でもとても面白い。

画面の構成、画角が何気なく『ビフォア・サンライズ』3部作っぽい。非常にリラックスしていて、映像に装飾がない感じ。ロードムービーだからこそ、その現場そのものの立地を活かした撮影になっている。特に電車での移動でビフォア3部作を彷彿とさせた。

祖母が亡くなったことをキッカケに、久々に再会した従兄弟二人がポーランドのツアー旅行に参加して、その道中で互いの負った傷や欠損した何かに気づいていく。

ベンジーはとにかく本当のことをグサグサと言っていく。デヴィッドがwebのデジタル広告の仕事をしていると言えば、「あれは最低だ」と目の前で言う。「そうした広告があるから、無料で見られているんだよ」とは返しはするもののベンジーの絶対的な物言いにはエネルギーと圧がしっかりとある。

このロードムービーはよくある行き当たりばったりの旅ではなくて、ガイド付きのツアー旅行というのが非常にキモになっている。ルートはきちんと決められていて、行く場所行く場所で付き添いのガイドがその場所について解説をしていく。ツアー参加者という他人同士だけど、そこの場所で共感覚をするために集まった人たち同士というバランスも、いい会話劇を生み出す要素になっている。

だが、このガイドの解説を時にしっかりと聞いたり、時に不要だと感じたり、直感で感じることと、解説付きで感じたりと異なる受け止め方をしていく。その感じ方の違いが主人公二人の、デヴィッドとベンジーのそれぞれの対比になっていたりする。

ガイドはテンプレート的に自分のガイドの仕事をしていくが、ベンジーに意見を正直に言われたことで、自分の仕事の在り方を捉え直そうとするシーンもある。ベンジーはこうした自分の思った意見を空気を読むといったことをせずに前のめりにずかずかと入り込んでは、正直に言う。(そして芯を食っている)

ポーランドのツアーは家族のルーツを探る旅にもなっている。収容所へ行ったり、ガス室があったり。そうしたことを拝見することで、自分の祖先が辿ったことを振り返っていく。ガイド付きのツアーであっても、自分の血筋を直感的に感じていく。目の当たりにしてこなかったそれぞれの歴史を、それらの施設を辿ることで前のめりに感じていく。そこにある傷、痛みを旅を通して痛感していく。

自由奔放なベンジーの行動はデヴィッドを困らせていくが、そんなベンジーの生き方を羨ましいと感じているのもデヴィッドの本心だ。ベンジーの奔放だが、芯を食った物言いと、どこか周りと歩調を合わせながら生きているデヴィッドは衝突とも相互理解とも判然のつかないやりとりを繰り返していく。言葉のキャッチボールだが、時に暴投のように投げ込まれるボールがヒリヒリすることもあるが、真剣かつユーモア溢れる言葉のやり取りが、互いに抱える傷に寄り添ういい演出になっていると感じる。

ツアーの参加者たちと少しずつ、そして小さな相互理解の会話があるのがとてもいい。

ちょっとしたシーンとシーンの合間にピアノの音が挿入されていくのだけども、憎い音響効果になっていて、やや棘のある言い回しのあるシーンでもそうしたことをやや包み込むような効果もあったりと、ややナマっぽさが強い映像に化粧水のようにシュッシュッと爽やかにしてくれる効果があるように思う。

ある意味ではポッドキャストのような映画だ。
通底するテーマに沿って、シーン毎に話題を変えて激突していく。

男二人が傷を抱えながら、旅を通してヒーリングを感じていく。
そんなある意味ではコテコテの王道ロードムービーが2025年にちゃんと上映されていてよかった。

家族のもとに帰るデヴィッドの姿が沁みた。どれだけボールを投げられても、他人の人生に羨ましいと感じても帰れる場所があることに救いがある。それだけで十分ではないかとも感じる

日本の漫才コンビとかこういうのやったらそれこそコンテンツが出来ちゃうんじゃないだろうか。
それこそダウンタウンとか、傷だらけだろうからやったらいいのにね。

そんなことを思った。

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