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"お母さん"なんだから|町田そのこさん「宙ごはん」

6歳の少女「宙(そら)」が成長し、職に就くまでを描いた365ページ。宙には2人の母親がいる。産んでくれた「カノさん」と育ててくれた「ママ」。

子育てに向かないカノさんと、ありったけの愛情を注いでくれるママ。そんな2人のイメージが、宙の成長とともに変わっていく。



少女目線で描かれた物語には、「母」が見え隠れする。

第三話「あなたのための、きのこのとろとろポタージュ」は、離婚して実家に戻った女性に振る舞われた料理だ。夫のDVから逃げてきた女性には、3歳の娘がいる。

ほぼ引きこもり状態だった女性がスプーンを手にし、ゆっくりとポタージュをすくう。

「あつっ」

いつも冷めた料理ばかり食べていたから、熱さに驚く。

あ〜分かるなぁ。ついつい自分を後回しにしてしまう。家族が食べ終わった後、カチカチになったパンや水分を吸ったラーメンを食べる。ひどいときなんて、食べることすら忘れてしまう。

「育児あるあるやなぁ」

なんてつぶやきながら、もう一度、題名を見る。

「あなたのための」を見た瞬間、想定外の涙があふれてくる。たった7文字やのに、「自分を大切にしていい」「ないがしろにしちゃダメ」「自己犠牲なんて不要」というメッセージが伝わってくる。

これが、言葉のチカラか。


「お母さんなんやから」

長男が生まれてすぐ、だったか。夫が何気なくつぶやいたひと言にイラッとした。

「そんなん言うなら、〇〇くん(夫)やってお父さんやん」

迷わず言い返したのだが(笑)、この「お母さん」ってどんな人を指すのだろう。確実に、否定の意味合い(もっと頑張れ)を含んでいるよね。


ず〜っと抱いてきた「お母さんなんだから」への反発心。この文章を読んで、「違和感」の理由が少しだけ分かった。

「絵本とか漫画、ドラマでもいいんだけど、お母さんってすごく特別に描かれてるよね。包み込むようなやさしさとか、無償の愛とか、そういうの。子どものことを第一に考えて自分は二の次だし、子どものことは何でもお見通し、みたいなイメージ、ない?」

問われてのろのろと頷くと、マリーは力強く頷いて「でもそれって、単なるイメージで、事実じゃないんだよ」と笑った。

「ただの理想なんだよ。アイドルみたいな、ファンタジーみたいな、ええとなんて言うんだっけ。ああそうだ、偶像!偶像なんだよ。素敵な母親なんてのはどこにも転がっていなくて、お母さんはただの『家族』なわけ」

中略

「そしてね、いまの世の中は辞書に載っていない、いろんな繋がりの『家族』ができてる。新しい意味の『家族』には、『母親』も『子ども』もない。助け合って生きていく集団のことを指すわけ」

町田そのこさん著「宙ごはん」

助け合い。

夫婦もそうやけど、「できる人がすればいい」んよね。

「お母さんなんだから(やって当然)」ではなく、手が空いている人がすればいい。

だって、

・つらくても涙を見せず、愚痴はこぼさず、いつも笑顔
・家族のためにおいしいご飯を作り、家の中はピカピカ
・だれよりも早く起きて、1番最後に寝る
・寝込んでいるところなんて、見たことがない

こんなん、スーパーマンよね。
完璧に見えたのならおそらく、そう見せていただけ。


さらに今は「女性活躍社会」の名のもとに、家事・育児・仕事を両立させるのが当たり前?

いやいや無理やろ。ハードルが高すぎる。

そもそもの要求が無・茶・苦・茶なんよ。極めてブラック。
だから自分を責める必要はない。

「大事なのはね、『絶対自分で子どもを育てなければならない』と思わないこと。ひとに預けてもいいんだよ。追い詰められた自分と一緒に崖っぷちに立たせるような生活を強いるより、安全な場所で健康なひとにしっかり育ててもらえるほうがいいじゃん」

中略

「そう。『とにかく生きる』が最優先。そのあとはいろいろあるだろうけど、『笑って生きる』ができたら上等じゃないかなあとあたしは思ってる。なかなか難しいけどさ、寿命が尽きるまでに叶えりゃいいじゃん?」

町田そのこさん著「宙ごはん」

「お母さん」になっても、未熟な人間に変わりはない。未熟だから疲れるし、イライラするし、泣きたくもなる。

それでいいんよね。

「お母さんなんだから」の呪縛に苦しむ人に、ぜひ読んでもらいたい1冊。



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