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映画「愚行録」の考察・ネタバレ

足を引きずる男 田中

冒頭、主人公の田中は足を引きずって歩く。だがそれは演技だった。

バスの中で「ご老人に席を変われ」と他の乗客に叱責され、足の悪い演技をして、相手に罪悪感を抱かせたのだ。

 一家殺害事件

1年前の一家殺害事件。世間の興味も完全に薄れた頃、記者の田中は何故かこの事件の取材を始める。

 幼児虐待事件

記者の田中には妹がいる。この妹が最近幼児虐待で逮捕されてしまい、全国的なニュースにもなってしまう。

つまり田中は仕事で1個の事件、プライベートでもう1個の事件と関わっていることになる。

田中の取材の目的は何なのか?

本作を見ていて不思議に思うのは記者の田中が何故一家殺害事件の取材にこだわるかということだ。

田中は殺害された一家と以前関係のあった人々に1人ずつ取材をする。

そして「あなたは誰が一家を殺したと思うか?」ということをそれとなく質問して行くのだ。

彼の目的はおそらく、真犯人である妹、田中光子をかばうためだったのではないか。

カフェオーナーの女性は何故殺されたのか?

田中が取材する中で、カフェオーナーの女性が出てくる。

その女性は最終的に、田中と妹が兄弟であることは知らないままに「光子が一家を殺したのではないか?」と述べる。「光子は殺された一家の妻に恨みがあるので、私だったら殺しに行くだろう」と。

女性カフェオーナーは、そのすぐ後に田中によって頭を殴られて殺されてしまう。

しかも田中は他人が吸ったタバコの吸い殻を準備しており、それを現場に残し、他人に罪をなすりつける。つまりこれは計画的な犯罪だ。少なくとも妹を悪く言われて感情的になったわけではないはずだ。

ここまで計画的に人を殺すのだから、カフェオーナーが犯人を誰と予想したかはまるで関係なく、最初から殺すつもりだったのかもしれない。

一家殺害の真犯人

妹の田中光子は1人の部屋で独白する。自分がどのように一家を殺したかということを。

これは彼女の妄想なのだろうか。それとも真実なのだろうか。

これが妄想にしては語られるディテールがリアルすぎる。真犯人でなければ知り得ないような情報がおそらく、その独白シーンでは語られている。

田中光子は殺された女「夏原」と、大学の同級生だった。その大学には色々と複雑なヒエラルキーがあったのだが、夏原は自分の立場のために、男たちに光子を供物として捧げ、慰みものした主犯なのだ、おそらく。

光子は大人になってから偶然夏原に再会し、そのまま後をつけて家にまで忍び込み、一家全員を殺してしまう。

兄と妹

妹の父親は誰かが分からない。「自分にも妹は真実を教えてくれない」と田中兄は言う。

だが劇中で示唆されるのは、その子供が兄と妹の子であるということだ。妹は「大好きな人と子供を作って暮らしたい」的なことを語り、そして兄が唯一世界で好きな人だと語る。そして兄と妹の間に誰にもいえない秘密があると語る。

これも心を病んだ妹の妄想なのか、それとも真実なのかは分からない。

だがこの兄弟の母が示唆するように、ただの妄想だとは片付けられなさそうな情報が提示される。

映画自体の感想・レビュー

本作はサブスク配信で見たが非常に良かった。この映画を観た人は全員が思ったかもしれないが、人間の嫌な部分が見事に映し出されていた。

妻夫木聡の、世の中にひたすらに絶望したような空っぽの表情が良かった。

この作品のテーマである「人間には裏がある」ということへの不信感、諦めのようなものがリアルに伝わってきていた気がする。彼はたぶん人間全体と自分自身にさえ絶望しているのだ。

満島ひかりを見たのは配信で見た「茜色に焼かれる」の主演以来だったが、流されやすく、主体性がなく、病んだまま不幸になる女の役が馴染んでいた。


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