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2022年広島の得点圏アプローチに迫る

大黒柱・鈴木誠也のMLB移籍があり、得点力の大幅な低下が予想された2022年の広島ですが、終わってみるとヤクルトに次ぐリーグ2位の得点を記録し、倍近い163本塁打を放った巨人を上回る大健闘ぶりを見せました。

打線の核が抜け、長打力が低下したにもかかわらず、何故得点力は大きく落ちることがなかったのでしょうか?

その謎を解き明かすカギは、得点圏での好成績にあります。
得点圏での420打点は両リーグトップと、長打で得点を奪えない分、得点圏に送り込んだ走者を確実に返すことで得点力を維持したのです。

ではなぜ2022年シーズンは、より多くの得点圏にいる走者を返すことが出来たのでしょうか?
主にアプローチ面に着目しながら、その謎を解き明かしていこうと思います。

1.得点圏成績の特徴は?

まず各球団の得点圏での成績を比較してみます。

ここでの広島の特徴を挙げると、
①チーム総本塁打に対する得点圏での本塁打の多さ
②三振も四球も少ないアプローチ

の大きく2点になります。

①チーム総本塁打に対する得点圏での本塁打の多さ

まず①についてですが、今季の広島のチーム総本塁打数は91本と、違反球時代の2012年以来10年ぶりに3桁に届かない少なさとなってしまいました。
そんな中でも、得点圏での26本塁打は4位タイと、チーム総本塁打の9位からは大きく相対的な位置がジャンプアップしています。

総本塁打に占める得点圏本塁打の割合を調べても、こちらのように28.6%でトップに立っていることからも、その多さが分かるかと思います。
決して多くの本塁打が出たわけではありませんが、今季に限ればその本塁打が非常に効果的な場面で出ていたと言えそうです。

②三振も四球も少ないアプローチ

三振率を示すK%が最も低く、四球率を示すBB%も最も低いことから、得点圏のBB/Kに関しては最下位の0.48という数値も特徴の1つです。

鈴木誠也が今季残したコメントの中に、こちらのように「得点圏だったので積極的にいこうかなと」というものがありました。
その他にも佐野恵太(DeNA)や丸佳浩(巨人)といった好打者もタイムリー時の談話で同様のコメントを残しており、このような意識は誠也に限らず、多くの選手が持っているようです。

走者を動かすために出来る限りインプレーを増やしたいとの意識の表れなのでしょうが、積極的にスイングを仕掛けると、当然若いカウントで勝負が決することも多くなるため、三振や四球は少なくなることが予想されます。
今季の広島において三振と四球どちらも少なかったのは、この意識がチームで徹底されていたが故なのかもしれません。

2.得点圏で長打が出る謎を解き明かす

得点力を大きく落とさなかった要因として大きいのは、得点圏で本塁打が多く出たところにあると考えられます。
効率よく長打が出ることで、まとめて得点を奪えることは当然ながら大きなメリットです。

しかし、なぜ得点圏で効果的に本塁打が出たのでしょうか?
この疑問を解き明かすため、まずは得点圏での球種別本塁打数を算出してみました。

※シュートはツーシームを含む
 フォークはスプリットを含む

得点圏でストレートを捉えた本塁打が10本もある村上を擁するヤクルトは少し抜きん出ていますが、広島もストレートを捉えた本数は14本と、総本塁打が26本と考えてもかなり多いのが分かるかと思います。
一方でフォークやチェンジアップ系の落ち球を捉えたものは1本もないことも特徴的です。

ストレートを多く本塁打にしたことが、得点圏で本塁打を増やせた源泉と言えそうですが、なぜここまでストレートを捉えることが出来たのでしょうか?
理由の一つとして考えられることは、得点圏では投球割合が高く、ストレートに絞りやすくなっていたが故に、ストレートを捉えやすくなっていた可能性です。
ということで、まずは投球割合から考えていきたいと思います。

全体と得点圏の投球割合を比較してみましたが、やや曲がり球の投球割合が増えるくらいで大きな変化は見られず、むしろストレートやシュートといった速球系の投球割合は減少していることが分かります。
ということは、決して速球系の投球割合が増えるために速球を狙いやすくなったわけではないと言えます。

次なる可能性として考えたいのは、各球種に対するスイング率です。
投球割合に変化はなくとも、打者としてスイングを仕掛ける姿勢が異なればその球種をどれだけ狙っていたのか、その執着度も図れるのではないかと思います。

全体と得点圏でのスイング率の変化を見てみると、広島の場合は速球系もしくはカットボールやスライダーといった曲がり球系の際に、スイング率が上昇していることが分かります。
NPB全体との割合を比較すると、曲がり球へのスイング率が上昇する傾向は変わらずも、NPB全体では変化のないストレートが広島だと上昇する傾向が見て取れます。
ストレートと球速の変わらないシュートの上昇幅も大きいことから、広島においてはとりわけストレートなどの速球系に合わせてスイングを仕掛ける傾向が平均と比べて強かったと言えそうです。

また、ISOを比較しても、NPB全体では得点圏に入るとストレートへのISOが低下しているにもかかわらず、広島は.029の上昇幅がある様子が見て取れます。
ツーシームやカットボールといった球種に対するISOの上昇も目立ちますが、母数が圧倒的に多くNPB全体では下降トレンドの中ISOを上昇させているストレートへの対応の方が、インパクトも大きく重要ではないでしょうか。

以上より、速球に合わせてスイングを仕掛け、その速球を高い確率で長打にするという、NPB全体の傾向とは異なる形で本塁打を増やしたことが分かりました。
さらに得点圏でのストレート狙いがどれほどの影響をもたらしたのかについて、wOBAcon(コンタクトした打球に対するwOBA)を用いて深掘りしていこうと思います。

wOBAconを用いて球種別の変化を見てみると、チェンジアップ、カーブ、フォークのみがNPBだと得点圏で高くなっています。
一方、広島の場合では、シュート系と投球割合の多くないシンカー以外は得点圏の方が高く、ストレートに限らず様々な球種に対応出来ていたことが窺える結果となりました。

ただ、これはあくまで率の部分であり、球種ごとに投球割合が異なることから量の部分までは勘案出来ていません。
そこで、こちらのwOBAconをwRAAに変換することで、トータルでどれほど量的な貢献があったのかも併せて確認しておきましょう。

カットボールやスライダーといったwOBAconで上昇幅の大きいかった球種を振り切って、投球割合の多いストレートが圧倒的に量の部分では貢献が大きいことが分かります。
投球割合の多い速球にしっかり合わせてスイングを仕掛け、そこにNPB平均を上回る質の良いコンタクトが乗っかり、大きくプラスを稼いだのです。

3.積極的なアプローチは打点を増やす?

広島に見られた三振も四球も少ない積極的なアプローチですが、そもそもこのアプローチがより多くの得点をもたらすのでしょうか?
これを明らかにするために、得点圏での打点数とK%、BB%、BB/Kといった指標の間にどのような関係があるのかを見ていこうと思います。

※赤いプロットは2022年広島を示す
※赤いプロットは2022年広島を示す
※赤いプロットは2022年広島を示す

2014年から2022年までの各球団の得点圏での打点数とK%、BB%、BB/Kの相関係数を調べたものが上記のようになります。
K%は低い方が、BB%とBB/Kは高い方が打点数も伸びやすいことが分かります。
ですので、三振を減らすとともに四球を減らすような積極的なアプローチは、打点数を伸ばすことには繋がりにくいと言えそうです。

しかし、その年度の投打バランスによって得点数も大きく変わってくることを考えると、該当年度の打点が平均からどれだけ傑出しているかを算出し、その数値とK%やBB%といった指標との相関関係を確認した方が良いように思います。
そこで、打点傑出度としてRBI+(その年度のリーグ平均打点からの傑出度)という指標を用いて、別途相関関係を確認していこうと思います。

※赤いプロットは2022年広島を示す
※赤いプロットは2022年広島を示す
※赤いプロットは2022年広島を示す

RBI+とK%、BB%、BB/Kの相関係数を調べたものが、上記のようになります。
多少の数値の変化はあれども、K%が低くなれば打点は増えやすくなる、BB/Kが良化するほど打点は増えやすくなるといった傾向に大きな変化は見られませんでした。
2022年広島を示す赤いプロットを見ても分かるように、BB%やBB/Kのように非常に特異な位置にプロットがあり、アプローチと打点の関係に関してはあまり再現性のない特殊なものだったと言えそうです。

以上より、BB/Kの低い2022年広島の得点圏アプローチは、決して打点を増やしやすいアプローチではなかったと言えるでしょう。
一方で、打点を増やすことに繋がる三振を少なくすることは出来ており、高いコンタクト力を発揮したことが、打点増に結び付いたのは間違いなさそうです。

4.なぜ三振を減らすことが出来たのか?

得点圏で高い長打力を発揮したということは、逆にコンタクト面が疎かになり三振も増えそうな気もしますが、2022年広島の場合は決してそうはなりませんでした。
なぜ長打を出しながらも、三振も減らすことに成功したのでしょうか?

まず三振を減らすには何が必要なのか考えてみます。
空振りを減らしバットに当てる、追い込まれるまでに積極的にスイングを仕掛けるの2点が真っ先に思い浮かぶところかと思います。
ですので、空振りを減らしバットに当てる→コンタクト率、追い込まれるまでに積極的にスイングを仕掛ける→スイング率の2点から、なぜ三振を減らせたのかを読み解いていきます。

得点圏時と非得点圏時のコンタクト率を比較してみると、非得点圏時の広島のコンタクト率は低くはないものの、決してトップクラスとも言えないところに位置しています。
しかし、基本的には得点圏時にコンタクト率は低下する傾向にあるものの、広島はその下降幅が-0.05%と非常に小さく、得点圏でのコンタクト率となるとNPBトップに躍り出ていることが分かります。
得点圏で強いボールを投げ込まれても、それを確率高くバットに当てる技術を持つ打者が多いためなのでしょう。

スイング率も同時に比較してみると、非得点圏時は4番目に低い44.9%なのが得点圏になるとかなり積極性が増し、3番目に高い47.7%まで上昇しています。
得点圏時はより積極的なスイング傾向で、まずは前に飛ばすという意識の強さが表れた結果と言えるでしょう。

以上より、三振を減らせた要因は、積極的なスイング傾向+強い球でもバットに当てられるコンタクトスキルの高さがもたらしたと言えそうです。
これによって三振を減らすことに成功し、ストレートを確実に長打にしたことも加わって得点圏での好成績に繋げたのです。

5.重要なのは長打?三振?

以上より、2022年広島に高得点力をもたらしたのは、速球系に狙いを合わせて確率高く長打にしきったことと、三振を減らすアプローチの2点が大きいということが分かりました。
ただ、これだけでは長打の部分と三振を減らすアプローチの部分のどちらの方が重要かは見えてきません。
最後に、RBI+について本稿で扱ったISO、K%にBB%も加えた3つを説明変数とした重回帰分析を行い、どの項目が最も重要なのかを探ってみましょう。

こちらが重回帰分析の結果となります。
この回帰式の当てはまりの良さを示す補正R2は0.391と、一般的な目安が0.8と考えるとあまり当てはまりが良いものとは言えませんので、参考程度に留めておいた方が良いでしょうし、もう少し項目を増やす必要もあるのでしょう。
統計的に有意であるかを示す有意Fは、0.05以下であることが示されており、統計的には有意に当たるようです。
説明変数の目的変数(ここではRBI+)への影響度が分かるt値はどうでしょうか?
切片の絶対値が最も高いため、これらの項目の他に何か重要な項目が紛れているのかもしれませんが、この3つの中では最も絶対値の大きいISOが最も大きな影響を与える指標と言えるでしょう。

ですので、どちらかというと長打の部分、高ISOをキープできるかが来季も得点圏で好成績を残すカギとなってくるでしょう。
勿論三振を減らすことも、四球を増やすことよりは影響度が大きいので、こちらも継続していく必要があるはずです。
ただ単に得点力が上がった、下がっただけでなく、その要因となるであろう両指標がどのように推移するのか、来季の注目ポイントの一つとしてみると面白いかもしれません。

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