見出し画像

ああ夏休み

川沿いの土手道を通勤している。
暑いその日も仕事を終え
やはり川沿いの土手道を運転して帰っていた。

ふと対岸の土手を見ると
ジャージ姿の男子中学生がひとり
自転車を漕いでいた。
対岸と言ってもそこまで川は広くない。
思い切り石を投げたら届くぐらいだ。
暑いだろうな、と
帽子も被ってない男子中学生を見た時に
こちらを向いた彼とふと目が合ったような気がした。

その途端に男子中学生はいきなり
ごんごんと力強く自転車を漕ぎ始めた。
どうやら私は競争相手として選ばれたらしい。
えええーーー!!
こちらは車で、あちらは自転車ではあるが、
こちらは対向車も来るセンターラインのない道路、
あちらは車も人もめったに通らない一本道、
と非常にこちらに分が悪い。
いや待て公道ですからここは。

アンタなんかズルくない?
と思いながら私は車を走らせる。
こちらの道は少し曲がっていて
橋も一本余計にあるのだ。
小さな橋を渡ったところで、
やっと道路にセンターラインが現れる。

こんな自転車の子ども相手に本気で運転したらあかんな、と思いつつ
なんかあっさり負けるのも悔しい。
しかしながら制限速度は30km。
スピードは出せない。
私は何に巻き込まれているのか。

じりじりとした真夏の太陽の下のレース。
やがて彼の決めた(らしい)ゴールに
男子中学生はバンザイをしながら先にゴールした。
こちらを向いてニヤリと笑った彼は
ガッツポーズをした後、
まっすぐ土手道を漕いで行った。

これは一体なんなんだ。
ひとり残された私はそこで気付いた。

あ、今日から学校は夏休みなんか!

自転車を漕ぐ
気分の良さそうな彼の背中を見送りながら思う。

どうか楽しい夏休みになりますように。


(了)













この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?