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人生の大半を○○として過ごすなんて耐えられない ~星の王子さまを読み終わったあとの人たちへ~ ⑨

庭を出ていくのに、お姫さまは渡り鳥の度を利用したいと考えていたようだ。旅立つ日の朝を夢見て、お姫さまはいつも自分の生活する敷地を綺麗に保っていた。トイレを汚すことなんてしなかった。近くの山は穏やかだったけれど、偶にちょっと遠い活火山から灰が降ってくることがあった。隣県にいくつかの活火山があったのだ。

これは地熱利用に便利だった。その地域の人は毎日のように温泉を利用する人が多かった。しかし、残念なことに、お姫さまの屋敷内に温泉はなかった。温泉がないから、猿が温泉に入りに来ることもない。山を越えて海に行けば島に死火山がある。そこでも温泉に入れる。そんな話をしても、お姫さまは興味を示さなかった。

猫のお姫さまがいうには、自然もそうじをするのだそうだ。〈用心に越したことはないからね!〉どんなに綺麗にそうじしても山が機嫌を損ねることはあるという。火山というのは、規則正しく燃えて、噴火はしない。噴火は、囲炉裏に灰がたまって起きる、木造の家の火事と同じようなものなのだ。だが私が住んでいる日本では、火山をそうじするには、人手不足すぎる。山の数が多いのだ。おかげで災害がたくさん起きてしまう。

小さなお姫さまは、ちょっぴりさびしい気分になりながら、生えてきたばかりの杉の芽を引きちぎった。ここにはもういたくないような気持ちだった。この朝は、いつもの朝の習慣を無視して久々に庭への脱走を試みたことが、いやに身にしみたのだ。いつもは、私が抱っこしていないとお姫さまは庭に出られない。

そうして花に最後の水をやり、透明なビニールのおおいをかけてやろうとしたときには、思わず泣きたくなっているのに気がついた。

「さようなら」
お姫さまは花に言った。
花は答えなかった。
「さようなら」
私も言った。
花は咳をした。でも風のせいではなかった。
「わたし、ばかだった」とうとう花が言った。
「ごめんなさい。幸せになってね」

ひと言も責められなかったので、わたしたちは驚いた。そして、その場に立ち尽くした。すっかりとまどい、ビニールのおおいも宙ぶらりんになった。この穏やかな静けさの意味をわかりたくなかった。
「そうよ。わたし、あなたを愛してる」
花が言った。
「知らなかったでしょう、あなた。わたしのせいね。どうでもいいけど。でも、あなたもわたしと同じぐらい、ばかだった。幸せになってね・・・・・・そのおおいは置いといて。もう、いいの」
「でも風が・・・・・・」
「風は大したことないわ・・・・・・ひんやりした夜風がからだにいいし。わたし、花だもの」
「でも獣が・・・・・・・」
「蝶々とお友達になりたかったら、毛虫の二匹や三匹がまんしなくちゃね。とってもきれいなんでしょう。だってほかに誰が訪ねてきてくれるかしら?もう花の時期は終わってしまうし。大きな獣もぜんぜんこわくない。わたしにだって、爪があるわ」
花は無邪気にトゲを見せた。そうして言いたした。
「さあ、いつまでもぐずぐずしていてはだめね。いらいらするから。花を落とすって決めたら、もう落とさないと」
でもそれは、泣くのをお姫さまに見られたくなかったからなのだ。ほんとうに、プライドの高い花だった・・・・・・

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マガジンが増えて収拾がつかず、普段の日記と区別するために有料にすることにしました。 素人短編を書いていこうと思います。内容の保証はできませ…

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