見出し画像

「ストライク・アップ・ザ・バンド」#1



とある吹奏楽部が舞台の映画脚本です。


ストライク・アップ・ザ・バンド」

【主な登場人物】

中川ひかり (24)……ローカルテレビの取材記者
長田翔子 (12)………桜橋中学校吹奏楽部1年(パーカッション)
木下このみ (12)……桜橋中学校吹奏楽部1年(フルート)
荒川夏野 (38)………桜橋中学校吹奏楽部 顧問
柏木望美 (13)………桜橋中学校吹奏楽部1年(トランペット)
今井遥 (14)…………桜橋中学校吹奏楽部部長(パーカッション)
吉原優希 (15)………桜橋中学校吹奏楽部3年(ファゴット・ドラムメジャー)
林優樹菜 (13)………桜橋中学校吹奏楽部2年(トランペット)
大畑瑞樹 (14)………桜橋中学校吹奏楽部2年(トランペット)
高木佑 (34)…………ひかりの上司
日野奈々未 (24)……フィギュアスケート日本代表選手

○黒味

トン、トン、トントン……。
トン、トン、トントン……。
スネアドラムが歩く速度で四分音符を叩く音。

○桜橋中学校・点描

スネアドラムの音。
それと共に、中学校の風景が映し出される。
校門。廊下。
主のいない音楽室。
マーチング用のポイントが打たれた体育館。
スネアの音に、拍手と声援が入り混じる。

○埼玉スーパーアリーナ(午後)

トン、トン、トントン……。
スネアドラムを叩く手元。
アナウンス「プログラム10番、桜橋中学校吹奏楽部、ドラムメジャー……」
入場する部員たちの足元。
保護者の声「桜橋ーー!! ファイトーー!!」
トン、トン、トントントントン、
スネアの音「!」
スネアが鋭くリムを叩く。
全員がスタート位置についている。
桜橋中学校マーチングバンドの演奏が始まる。
暗転。

○黒味

タイトル「ストライク・アップ・ザ・バンド」

○桜橋中学校・校門〜校舎内(現在)

門をくぐる生徒たち。
散り始めた桜。
それらを映し出しているのは、誰かのビデオカメラ。
ピントが合ったりボケたり。
ガタガタと不安定に揺れる画面。
女の声「ん!? え? あれ?」
と、突如カメラが180度回転。
女のマヌケ面のアップ。
レンズを覗いているのは中川ひかり(24)である。
ひかり「え、なんで? なんで?」
「さくらテレビ」の腕章をつけているひかり。
スマホで誰かに電話をかけている。
ひかり「もしもしお疲れ様です中川です……高木さん、あの、なんか触ってないんですけど、ピントが合わな……え、ああ、いやいじってないです、ん、オートにしとけ、え、どこ押せばいんですか」
カメラ片手に悪戦苦闘するひかり。
それを通り越して行く女子生徒、長田翔子(12)。
カバンにアイドルグループ「いちご学園応援部」のメンバー、新垣はるな(18)のキーホルダーをつけている。
校門前で待っている少女。
色白でメガネの木下このみ(12)。
このみに飛びつく翔子。
このみ「(キーホルダーを見て)なにこれ」
翔 子「? (アイドルの自己紹介を真似て)私たち、アナタを応援するアイドル、いちご学園応援……」
ちょっとガラが悪そうな上級生が二人を見ている。
翔子・このみ「……(大人しく通り過ぎる)」
下駄箱で上履きにはき替える二人。
このみ「ねえ、入学式の次の日からキーホルダーとかつけない方がいいってお姉ちゃん言ってたよ?」
翔 子「えっ、なんで!?」
このみ「あたしまで目つけられるよ取ってよおお」
翔子、不服そうにキーホルダーを外す。
教室へ向かう二人。
玄関には各部活動の活動実績が並んでいる。
中でも目立っているのが吹奏楽部の集合写真。
この3年間で銅賞、銀賞、金賞と成績を伸ばしたのがわかる。
ひかりの声「おはようございます、さくらテレビの中川です」

○同・職員室

副校長(56)と並んで教員に挨拶するひかり。
副校長「先生方には、まあーーお知らせしてましたが、はい、今日から桜橋のケーブルテレビさんにですね、うちの吹奏楽部を、密着取材ということでね、してもらいますんで」
吹奏楽部の顧問、荒川夏野(38)が立ち上がり、
荒 川「すみませんが、よろしくお願いいたします」
拍手しながら聞こえないように話している教師2名。家庭科の富田康代(44)と体育の岡本貴(49)。
富 田「クレームとか、絶対ありますよ」
岡 本「ケーブルテレビで映るぐらい、いいじゃない記念になるし、ねえ」
富 田「じゃなくて、吹奏楽部ばっかり、って」
岡 本「あーー……まあ、ねえ」
二人、荒川の方を見る。
岡 本「まあーー……荒川先生がってより、副校長でしょ? 今年生徒、集まらなかったから。宣伝材料」
富 田「生徒集まらないのは四中が制服ブレザーに変えたからでしょ。制服かえりゃいんですよ」
荒川がひかりに、
荒 川「このあと、オリエンテーションがありますんで」
ひかり「あ、はい、ばっちり! 撮影します!」
岡 本「まあーー……荒川先生も、今年は全国って意気込んでるし。いいじゃない他の部活にも良い刺激んなって」
富 田「荒川先生のことだって、いろいろあるんですからね吹奏楽部ばっかり入れ込んで、クラスの方ちゃんと見てるのかって」

○同・体育館

新入生がクラスごとに並んでいる。
部活動一覧を見ている翔子。
後ろから声をかけてきたのは柏木望美(13)。
望 美「部活なに入るの?」
翔 子「え!? あ……まだ、決めてません」
同い年と思えない垢抜けた少女が座っている。
望 美「決めてないの? 吹奏楽部入らない?」
翔 子「あーー……考えてなかった、です」
望 美「なんで敬語なの?(と笑う)」
翔 子「あ、ああ……」
望 美「長田さんて4小? わたし北小だったんだけど。よろしくね、望美でいいよ」
翔 子「ああ……はい」
その背後、ひかりが三脚と格闘している。
カメラがつかないらしい。
ひかり「え、なんで? え!?」

×     ×     ×

部活動のオリエンテーション、点描。
各部、舞台に上がって部をPRしている。
野球部部員「野球部では、新入部員の募集は行っていません!」
ざわつく場内。
野球部部員「それでもやる気がある新入生は、放課後、校庭に集合するように!」

×     ×     ×

バスケ部は女装していちご学園の曲を踊っている。
翔子、ひとりテンションが上がる。
翔 子「バスケ部……」

×     ×     ×

各部活紹介を撮影しているひかり。
司 会「次は、吹奏楽部の紹介です」
ひかり、カメラを三脚から外し、ファインダーを覗き込む、と……、
ひかり「? え!?」
「メモリ不足」と表示されている。
ひかり「なんで!?」
舞台上に3年の吉原優希(15)が登場する。
優 希「突然ですがみなさん、後ろを向いてください!」
新入生がどよめき、一斉に後ろを向く。
その瞬間、パーカッションのドラムロール。
迫力あるマーチングドリルがスタートした。
楽器を演奏しながら、動き回り形を作る。
曲は聞いたことがある映画のテーマ曲だ。
ひかり「……」
優希が登場。
バトンを宙に放り、見事にキャッチ!
どよめく場内。
中間、パーカッションパートのパフォーマンス。
そこで一番目立っているのがクオードを叩いている今井遥(14)。
ソロで圧倒的な実力を見せつける。
ひかり、はっとしてスマホで撮影を始める。
パーカッションのソロを挟み、いちご学園のヒット曲がスタート。
場内から手拍子が自然と起こる。
バスケ部員「んだよ、かぶってんじゃん!!」
と、女装バスケ部が舞台に乱入。
岡 本「おい!! コラ降りろ!」
が、吹奏楽部もまんざらじゃない様子で受け入れ、場内の盛り上がりは最高潮に。
その様子を追うカメラ。
演奏に魅せられて放心状態の翔子。
その横顔を、カメラがとらえる。
翔 子「……」

○ゲームセンター(放課後)

翔子、太鼓の達人でいちご学園の曲を叩いている。
めちゃくちゃ下手。
それに付き合わされているこのみ。
終わってもまた小銭を入れてスタート。
このみ「ねーー帰ろうよ先輩とかに見つかったらヤバイってばねえーー!!」

○さくらテレビ・会議室

ひかりと上司の高木佑(34)が撮影した素材をチェックしている。
高 木「なんで携帯で撮ってんだよなんでSD替えとかないんだよこのポンコツ」
ひかり「だってあとどんぐらい残ってるかわかんないし……」
高 木「教えただろ!?」
ひかり「すいません……」
高 木「まあ、臨場感あるから今回だけ許す。次やったらお前クビ」
ひかり「カメラマンつけてくれれば」
高 木「は?」
ひかり「すいません」
高 木「俺も吹奏楽そんなわかんないんだけど、(モニターを指差して)この子は、すごいな。可愛いし。この子推してこう」
高木が指差しているのは遥。
ひかり「……顔ですか」
高 木「や、顔だけじゃないじゃんこの子。なんか惹きつけるよ」
ひかり「……すごかったですけどね。 クオードって楽器らしいんですけど」
と、音楽室でのインタビュー映像に切り替わる。
ひかりの声「楽器と、お名前をお願いします」
 遥 「パーカッション3年、今井遥でーす! フ〜〜! はははははは」
高 木「喋るとアホなのか」
ひかり「でも部長さんなんですよ」
 遥 「クオードは、マーチング用のドラムのひとつなんですけど、こんな風に、4つ太鼓がついてます」
ひかりの声「なんか叩いてもらっていい?」
まわりの部員が「ウェーーーイ」と囃し立てる。
遥、照れながらドラミングを披露する。
高 木「これはギャップ萌えだな」
ひかり「あ、これは楽器体験に来た一年生です」
翔 子「すごいです!! 遥先輩神です!! もう絶対パーカッション入ります!!」
ひかり「楽器うまくて部長で、美人で、おしゃれで、運動できて、サッカー部に彼氏がいるらしいです」
高 木「完璧だな」
ひかり「ただちょっと勉強できないらしいですね」
高 木「最高だな」
と、モニターに映る遥、突然ひかりのカメラを奪う。
モニターに映るひかり。
ひかり「あ、これは」
ひかり、中学生たちの一発芸コールに乗せられて、股割りを披露する。
意外と盛り上がる。
高 木「なに遊んでんだよ」
ひかり「すいません」
高 木「誰かお前のこと知ってた?」
ひかり「知るわけないじゃないですか」
高 木「全日本代表なのにな(と笑う)」

○電車内(夜)

帰宅しているひかり。
週刊誌の中吊り広告。
「美しすぎるスケーター、日野奈々未のあざとすぎる素顔」というゲスい見出し。
ひかり「……」
ひかりの声「どうせ私の演技なんて美しすぎるスケーターななみんのインタビューに隠れて放映もされてませんし」
高木の声「そりゃそうだろ。カメラは数字取れる方に集まるんだよ」

○帰り道

帰り道を行くひかり。
ひかりの声「……高木さんは変な気使ってこないんでかえって楽です」
高木の声「テレビマンだもん」

○中川家・外観〜リビング

帰宅するひかり。
母、由加利(50)が慌ててテレビを消す。
由加利「おかえり〜」
ひかり、黙ってテレビをつける。
奈々未が出ているチョコレートのCMだ。
ひかり「そういうのいいから」
由加利「……そう?」
と、言いながら奈々未が宣伝しているチョコレートを大量に出してくる由加利。
ひかり「なにこれ」
由加利「だって……お母さんにとっては奈々ちゃんも娘みたいなもんなんだもんしょうがないじゃない」
ひかり「なんか、週刊誌にまた書かれてたけど」
由加利「……(週刊誌を座布団の下から出す)」
ひかり「……」
由加利「だって……心配なんだもんこんな、書かれ方、ひどくない?」
ひかり「しょうがないの。注目されるってそういうことなの。ていうかこれ、どうすんの? 誰が食べんの?」
由加利「なによ仕事、疲れてるかなって思って、買ってきたのに。ねえ、仕事のやつ、どうなの? 吹奏楽」
ひかり「見る?」

×     ×     ×

ひかり、パソコンを開いて前年度の桜橋のマーチング演奏を見せる。
ひかり「マーチングって言って、楽器吹きながらこうやって、マスゲームみたいな」
由加利「わあ、わあああらあら、すごい、これ、吹いてるの?」
ひかり「吹いてるよ」
由加利「あらあらすごい後ろ下がったよ」
ひかり「文化部だと思って行ったら、全然。軍隊みたいだもん」
由加利「なんか、フィギュアに似てるねえ。楽しいねえ」
ひかり「え?」
由加利「芸術とスポーツの融合って感じ。お母さんこういうの好き」
ひかり「……そうだねえ」

○同・ひかりの部屋

部屋に入るひかり。
かつて学習机だったそれには、選手時代のひかりのトロフィーや賞状。
ひかり「……」
机に貼ってあるプリクラ。
奈々未と撮ったものだ。おそらく高校生くらい。
「オリンピック行くぞ」と落書きしてある。
ひかり、剥がそうと引っ掻くが、剥がれない。
ひかり「……」

〈つづく〉



いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集